一般雇用で働いていた頃にうつと双極性障害を発症し、精神障害者保健福祉手帳を取得。就労移行支援を経て、大手企業の特例子会社へ。面接を受ける側と、面接をする側の両方に座りました。
はじめに

「障害者雇用って、給料が下がるんでしょ?」
「ネットで調べたら『やめとけ』って書いてあった」
ここにたどり着いたあなたは、いまの働き方を続けるか、障害者枠に移るかで迷っているのかもしれません。デメリットを先に知っておきたいという気持ち、私にもよく分かります。
私は、一般雇用の3社すべてで体調を崩し、30代中盤で双極性障害と診断されて、精神障害者保健福祉手帳を取得しました。その後、障害者雇用で大手企業の特例子会社に入り、いまも同じ会社で13年以上働いています。
社内では総務・経理・窓口業務などを経験し、人事・採用担当として面接する側にも座りました。障害者雇用で働く当事者と、採用する側。その両方から見てきたことを、この記事でお話しします。
先にお伝えしておくと、障害者雇用のデメリットは確かにあります。私も入社したときは契約社員で、給料は一般雇用のころより下がりました。昇給の幅も、一般の社員より小さいんです。
それでも13年続けてこられたのは、デメリットを知ったうえで選んだからだと思っています。給料も、年数とともに一般雇用のころに追いついてきました。
この記事で分かることは、次の3つです。
- 障害者雇用で働く本人のデメリット7つと、「やめとけ」と言われる本当の理由
- 一般雇用から移って13年の私が、実際に感じたデメリットと、それでも続けられた理由
- 移るかどうか迷ったときの判断基準と、デメリットを小さくする求人の選び方
2回の休職を含む私の経歴は、プロフィールページにまとめています。
1. 障害者雇用と一般雇用は何が違う?先に整理しておきたい基本

デメリットの話に入る前に、障害者雇用とは何か、一般雇用と何が違うのかを整理しておきます。ここがあいまいなままだと、ネットで見かける「デメリット」のどれが自分に当てはまるのか、判断しにくいんですよね。
1-1. 障害者雇用(障害者枠)の仕組みと、使える人の条件
障害者雇用とは、企業が障害のある人を一定の割合で雇うよう法律で決められていることから生まれた、障害のある人向けの採用枠です。応募するには、基本的に障害者手帳が必要になります。
なぜ手帳が必要なのか。それは、企業が「何人の障害者を雇っているか」を数えるとき、対象になるのが手帳を持っている人だからです。
民間企業の法定雇用率(従業員のうち障害のある人を雇わなければならない割合)は、2026年7月から2.7%に上がりました。従業員を37.5人以上雇っている企業は、障害のある人を1人以上雇う義務があります。数える対象は、身体障害者手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳のいずれかを持っている人です。
(出典:厚生労働省「事業主の方へ」、京都労働局「法定雇用率の引上げ」)
そのため、障害者枠の求人の多くは、手帳を持っていることが応募の条件になっています。

手帳がないと、障害者枠には応募できないんですか?

多くの求人では、手帳を持っていることが条件になっています。私も入院中に、担当医から「手帳を取って、障害者雇用という道もある」と紹介されたのが始まりでした。手帳を申請できるかどうかは、まず主治医に相談してみてください。
私の場合は、手帳を取ったあと、就労移行支援(障害のある人が一般企業で働くための訓練を受けられる福祉サービス)に3か月通い、特例子会社に入社しました。
特例子会社とは、障害のある人が働きやすいように特別な配慮をしている子会社で、そこで雇った人数を親会社の分として数えられる会社です。仕事の中身や給料など、特例子会社ならではの話は、特例子会社の働き方と給料のリアルで詳しく書いています。
つまり、障害者雇用の入り口に立つには、まず手帳が必要です。「障害者雇用にするかどうか」と「手帳を取るかどうか」は、実はセットの判断なんです。
1-2. 一般雇用との違いを表で比べる
一般雇用と障害者雇用の違いを、ひとつの表にまとめました。
| 比べること | 一般雇用 | 障害者雇用 |
|---|---|---|
| 応募の条件 | 特になし | 多くの求人で障害者手帳が必要 |
| 障害を伝えるか | 自分で決める(伝えずに働く人も多い) | 伝えたうえで働く |
| 配慮 | 障害を伝えれば求めることはできる | 入社前から配慮の内容をすり合わせて働く |
| 求人の数・職種 | 多い・幅広い | 少なめ。事務や軽作業が中心になりやすい |
| 給料 | 会社や職種しだい | 低めの傾向。精神障害のある人の平均は月14.9万円(短時間勤務の人も含む) |
| 雇用形態 | 正社員の求人も多い | 契約社員から始まる求人が多い。精神障害のある人で正社員は32.7% |
| 相談先 | 上司・人事 | 上司・人事に加えて、支援機関の職場定着の支援も使える |
表の中の「配慮」について、少し補足させてください。障害のある人が働くうえでの困りごとを、会社が個別の対応で取り除くことを「合理的配慮」といいます。これは障害者雇用だけの話ではなく、一般雇用でも障害を伝えれば求めることができます。
違いが出るのは、配慮の話を「いつ、どこまで」するかです。障害者雇用では、面接の段階から配慮の内容をすり合わせるのが前提です。一般雇用で障害を伝えずに働いていると、そもそも相談のきっかけがつかみにくいんですよね。
私が両方を経験して一番違うと感じたのも、この点でした。一般雇用のころは、体調に異変があっても「チームが忙しいから」と言い出せずにいました。障害を伝えて働くかどうかの違いは、体調が安定しないときに相談しやすいかどうかの違いだと、いまは思っています。
一般雇用のまま障害を伝えて働く「オープン就労」と、伝えずに働く「クローズ就労」の比べ方は、オープン就労とクローズ就労の選び方でも取り上げています。
1-3. 「障害者雇用のデメリット」には本人側と企業側の2種類がある
「障害者雇用 デメリット」で検索すると、上位の記事のうち、いくつかは企業向けの記事なんです。
企業側のデメリットとは、たとえば次のようなものです。
- 法定雇用率に届かないと、納付金(足りない人数に応じて国に納めるお金)が発生する(常用労働者が100人を超える企業)
- 受け入れる職場の準備や、社内の理解づくりに手間がかかる
- 仕事の切り出し(障害のある人に任せる業務を整理すること)が難しい
どれも会社が抱える悩みで、働くあなたが負うデメリットではありません。この記事では、働く本人の側のデメリットに絞ってお話しします。
ただ、企業側の事情を知っておくと、本人にとって役に立つこともあります。2025年の民間企業で雇われている障害のある人は70万4,610人で、過去最多でした。それでも、法定雇用率を達成している企業は46.0%と、半分に届いていません。
企業にとって、障害のある人の採用は「やらなければならないこと」になっています。この流れが求職者にとって何を意味するのかは、4章のメリットのところで、採用の現場で感じていたことと合わせてお話しします。
次の章では、いよいよ本人側のデメリットを7つ、具体的に見ていきます。
2. 障害者雇用で働く本人のデメリット7つ

ここからは、障害者雇用で働く本人にとってのデメリットを7つ、ひとつずつ見ていきます。当事者として働いてきた実感と、採用する側で見てきたことの両方から書いていきます。「これは自分に当てはまるかも」と思うものに、印を付けながら読んでみてください。
2-1. 給料が一般雇用より低い傾向がある
障害者雇用の給料は、一般雇用より低くなりやすいのが現実です。先ほどの表でも、精神障害のある人の平均は月14.9万円でした。
ただ、この数字だけで「障害者雇用は生活できない給料なんだ」と決めるのは早いんです。同じ調査では、精神障害のある人のうち、週30時間以上働いている人は56.2%でした。残りの4割以上は、それより短い時間で働いています。短時間で働く人も含めた平均なので、フルタイムで働く人の実感より低く出ている面があります。
(出典:厚生労働省「令和5年度障害者雇用実態調査結果報告書」)
それでも給料が低めになりやすいのには、理由があります。
- 体調に合わせて、短い時間から働き始める人が多い
- 事務の補助や軽作業など、給料の水準が高くない仕事が中心になりやすい
- 契約社員から始まる求人が多い(2-4 で詳しくお話しします)
- 入社後の昇給の幅が小さい会社がある
一方で、採用担当をしていたころ、内定者から他社の給料の話を聞く機会が何度もありました。会社によって、給料の差はかなり大きいと感じています。この点は6章で詳しくお話ししますね。
平均の数字は「障害者雇用全体の目安」です。あなたが応募する会社の給料とは別物だと考えてください。
2-2. 求人数が少なく、職種が限られやすい
障害者雇用の求人は、一般雇用に比べると数が少なく、職種も偏りがちです。
精神障害のある人が就いている仕事を見ると、多い順に、事務の仕事が29.2%、専門・技術の仕事が15.6%、サービスの仕事が14.2%、運搬・清掃・包装などの仕事が11.1%でした。事務の仕事がいちばん多く、選べる職種の幅は一般雇用より狭いのが実情です。
(出典:厚生労働省「令和5年度障害者雇用実態調査結果報告書」)
職種が偏る理由は、企業側の事情にあります。企業は、障害のある人に任せる仕事を、今ある業務の中から切り出して用意することが多いんです。その結果、手順が決まっている事務や、定型の作業が中心になりやすくなります。
私の勤め先も、親会社やグループ会社から、事務などの仕事を社内で引き受ける形がほとんどでした。そのぶん部署の数は多く、私は総務・経理・窓口業務・人事と、いくつもの部署を経験しています。
「やりたい職種がそもそも求人に出ていない」ということは起こりえます。これまでの専門性を生かしたい人ほど、このデメリットは大きく感じるはずです。
2-3. 昇進やキャリアアップの道が見えにくい職場がある
障害者雇用では、「この先どう上がっていけるのか」が見えにくい職場があります。
理由は、会社によっては、障害者雇用で入った社員の評価や昇進の仕組みが、ほかの社員と分かれているからです。配慮を前提にした働き方なので、責任の重い役職を任せる流れが、会社の中でまだ作られていないこともあります。
私自身は、方向性として昇進を目標にしませんでした。そのかわり、他部署やグループ会社との交流の場に積極的に参加して横のつながりを作り、人とのつながりで仕事の幅を広げる道を選んでいます。上に上がるより、横に広げるほうが、自分の特性に合っていたんですよね。

障害者雇用だと、出世はできないんですか?

会社によります。私の勤め先のように、リーダーやマネージャーを目指せる仕組みがある会社もあります。入社前に「評価の仕組み」と「どんな役職の人がいるか」を聞いておくと、入ってからのずれが減りますよ。
出世したい気持ちが強い人ほど、入社前に評価と昇進の仕組みを確かめておきたいところです。
2-4. 契約社員から始まる求人が多い
障害者雇用では、最初は契約社員(期間を決めて結ぶ雇用契約)から始まる求人が多くなっています。
先ほどの表のとおり、精神障害のある人で正社員は32.7%でした。同じ調査では、期間の決まった契約で、正社員ではない形で働く人が40.6%と、いちばん多くなっています。
(出典:厚生労働省「令和5年度障害者雇用実態調査結果報告書」)
企業が契約社員から始めるのは、体調や仕事との相性を、一定の期間をかけて確かめたいからです。採用する側から見ると、これは「落とすため」ではなく、「無理なく続けられる形を探すため」の期間でした。
ただ、働く側にとっては、契約が更新されるかどうかの不安がつきまといます。私も入社したときは契約社員でした(正社員になるまでの話は5章でお話しします)。
知っておきたいのが、「無期転換ルール」です。同じ会社との期間の決まった契約が、更新を重ねて通算5年を超えた場合、働く人が申し込めば、期間の決まっていない契約に変えられる仕組みです。
(出典:厚生労働省「無期転換ルールについて」)
期間の決まっていない契約になっても、必ずしも正社員になるわけではありません。応募するときは「正社員になった人がいるか」「どのくらいの期間で変わったか」まで聞いてみてください。
契約社員から正社員に登用されるまでの流れや、登用される人の特徴は、障害者雇用で正社員になれない理由と、契約社員から1年で正社員になった体験にまとめています。
2-5. 障害を職場に伝えることになる
障害者雇用で働くということは、自分の障害を会社に伝えたうえで働く、ということです。「周りにどう見られるか」は、多くの人が気にするところだと思います。
私も、障害者雇用に移る前は周りの目が気になっていました。「障害者枠 惨め」という言葉で検索する人がいるのも、この不安の表れなんですよね。
ただ、実際に働いてみて分かったのは、会社に伝えることと、職場の全員に知られることは別だということです。
精神障害は、見た目では分からないことが多い障害です。配慮が必要な場合は、上司から情報を共有してもらい、チームの人にも伝えておくと働きやすくなります。一方で、個人情報を守る観点から、チームの中で障害の内容を伝えるかどうかを判断する場合もあります。実際に、チームリーダー以外は配慮の内容を知らないという職場もありました。
どこまで伝えるかは、入社前に会社と相談して決められることが多いんです。「全員に知られるのがつらい」と感じる人は、面接や入社前の面談で、共有する範囲を確認しておくと安心です。
2-6. 配慮が「足りない」「行き過ぎる」とずれることがある
障害者雇用では配慮を受けながら働けますが、その配慮がいつもぴったり合うとは限りません。
配慮が足りないと、「障害者雇用なのに分かってもらえない」と感じます。逆に配慮が行き過ぎると、「簡単な仕事しか回ってこない」「体調のことを必要以上に聞かれる」と感じることがあります。どちらも、会社は良かれと思ってやっていることが多いので、言い出しにくいんですよね。
採用担当をしていたころ、事前に聞いた配慮の内容は、落とす材料ではなく、配置と環境を決める材料として使っていました。たとえば、その場ですぐに判断や対応をするのが苦手な人から「電話や窓口の対応が難しい」と聞いていれば、外部とのやりとりがない部署に配置しました。周りの音が気になって集中しにくい人には、ノイズキャンセリングのイヤフォンの使用を認めたこともあります。
配慮のずれの多くは、会社が「何に困るのか」を具体的に知らないことから起こります。伝え方の工夫は、配慮事項を書面で伝えるナビゲーションブックの書き方にまとめました。
入社したあとで配慮が薄れてきたときの原因の見分け方と、誰にどの順番で相談するかは、「障害者雇用で配慮してもらえないのはわがまま?」にまとめました。
2-7. 障害者手帳が必要になる
1章でお話ししたとおり、障害者雇用で働くには、基本的に障害者手帳が必要です。これは、人によっては大きなハードルになります。
うつ病などの精神の病気の場合、対象になるのは精神障害者保健福祉手帳です。申請できるのは、その病気で初めて医師にかかった日から6か月以上たってからです。手帳の有効期間は2年間なので、2年ごとに更新の手続きが必要になります。
(出典:横浜市「精神障害者保健福祉手帳の交付」)
手続きの手間以上に大きいのは、気持ちの面です。「自分が障害者手帳を持つことになるとは思っていなかった」。私も23歳で就職したころは、まさか10年後に手帳を持つことになるとは思ってもいませんでした。

手帳を取ったら、ずっと「障害者」として生きていくことになるんでしょうか…。

手帳は、あくまで必要な支援や配慮を受けるための「道具」だと、私は考えています。症状が落ち着けば、更新しないという選択もあります。取るかどうか、更新するかどうかは、主治医と相談しながら決めてみてください。
手帳を取る時期や、いまの状態で申請できるかは、人によって違います。お住まいの市区町村の窓口と主治医に確認してみてください。
ここまでの7つを読んで、「思っていたより厳しい」と感じたかもしれません。次の章では、ネットでよく見る「やめとけ」「後悔した」という声が、どこから生まれているのかを見ていきます。
3. 「やめとけ」「後悔した」と言われる本当の理由

「障害者雇用はやめとけ」「移って後悔した」。検索すると、こうした強い言葉が目に入ってきますよね。この章では、その声がどこから生まれているのかを分けて考えてみます。あなたにとって本当に避けるべき話なのか、判断する材料にしてください。
3-1. 後悔の多くは、デメリットを知らずに入ったことによるずれ
「やめとけ」「後悔した」という声を読み比べると、多くは入る前に知っていれば防げたずれから生まれています。
たとえば、次のような声です。
- 給料がこんなに下がるとは思わなかった
- もっと専門的な仕事ができると思っていた
- すぐに正社員になれると思っていた
- 配慮してもらえると思っていたのに、想像と違った
どれも、2章で見たデメリットそのものなんです。障害者雇用という働き方が悪いというより、知らないまま入ったことで、期待とのずれが大きくなったケースが目立ちます。知恵袋の回答でも、「会社選びが重要」という意見が何度も出ていました。
採用する側から見ても、入社後に「思っていたのと違う」となった人には、はっきりした共通点がありました(6章でお話しします)。
逆に言えば、ずれは入る前にかなり減らせます。求人票に書かれていないこと(実際の仕事の中身、昇給した人の例、職場の雰囲気)は、障害者雇用に詳しい転職エージェント(仕事探しを無料で手伝ってくれる人材紹介の会社)に聞くと教えてもらえることがあります。
障害者専門の転職エージェントなら、求人票には出てこない職場の実情まで相談できます。
3-2. 給料が下がって生活が苦しくなるケース
後悔の声でいちばん多いのが、給料の話です。一般雇用から移った人ほど、下がり幅を大きく感じます。
私も入社したときは、一般雇用のころより給料が下がりました。ただ、ここで知っておいてほしいのは、給料だけで比べないという視点です。
障害年金(病気やけがで生活や仕事が制限されるようになったときに、現役世代でも受け取れる年金)を受け取れる場合、給料と合わせた「トータルの収入」で考えることができます。私の場合、合わせて考えると、入社したときから一般雇用のころと同じくらいでした。障害の等級によっては、一般雇用のころを超える場合もあります。
この「トータルで見る」視点は、実際に障害者雇用で働いている人や、仕事で障害年金に関わっている人でないと、なかなか持てません。知っているかどうかで、判断が大きく変わる部分なんです。
(出典:日本年金機構「障害年金」)
ただし、障害年金を受け取れるかどうかは、初めて医師にかかった日にどの年金に入っていたか、障害の状態など、いくつもの条件で決まります。働いているかどうかも審査の中で考慮されますが、「働いている=もらえない」ではありません。仕事の内容や、職場で受けている配慮なども含めて判断されます。
(出典:厚生労働省「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」)
「障害者雇用で働けば必ずもらえる」わけではないので、受け取れるかどうかは、年金事務所や主治医に確認してみてください。
3-3. 仕事が物足りず、成長を感じられないケース
給料の次に多いのが、「仕事が簡単すぎる」「成長している実感がない」という声です。
2-2 で見たとおり、障害者雇用の仕事は、手順が決まった事務や定型の作業が中心になりやすくなります。体調を立て直したい時期にはありがたい一方で、慣れてくると物足りなさを感じる人が多いんです。一般雇用で責任のある仕事をしてきた人ほど、このギャップは大きくなります。
私も入社したばかりのころ、最初に配属された経理の部署では、正直あまり仕事に興味が持てませんでした。数字がどちらかというと苦手だったこともあります。ところが3か月目に窓口業務の部署へ移ったことで、仕事が一気に楽しくなりました。
「物足りない」と感じたときに、部署を移ったり、任される仕事を広げたりできる会社かどうかで、この後悔は大きく変わります。障害者雇用の中でも、社内にいくつも部署がある会社は、合う場所に移れる可能性があるんですよね。
3-4. 逆に「移ってよかった」という声もある
「やめとけ」の声ばかりが目立ちますが、障害者雇用に移ってよかったという声も、実はたくさんあります。
知恵袋では、34歳まで中小企業の一般雇用で働き、いまは大手の障害者雇用で働いている人が、こう答えていました。一般雇用のころは福利厚生がなく、年間休日は105日。障害者雇用に移ってからは、休日が120日になり、賞与も5倍に増えたそうです。
(出典:Yahoo!知恵袋)
もちろん、すべての人がこうなるわけではありません。ただ、この例から分かるのは、一般雇用か障害者雇用かより、どの会社で働くかのほうが、条件を大きく左右するということです。
私の勤め先にも社員食堂があります。額面の給料には出てきませんが、こうした福利厚生は、長く働くうえで健康を保つ財産になると感じています。
「やめとけ」という言葉は、その人がたまたま合わない会社に入った経験から出ていることも多いんです。あなたにとってどうかは、次の章で見るメリットと比べてから判断しても遅くありません。
いまの職場を「辞めたい」と感じていて、辞めるか残るかで迷っている人は、こちらも参考にしてみてください。
●辞めどきの判断や、辞めた人のその後は、以下の記事にまとめています↓
4. それでも障害者雇用を選ぶメリット

ここまでデメリットばかりお話ししてきましたが、障害者雇用には、それを上回るメリットを感じる人も多くいます。私が13年続けてこられたのも、この章のメリットがあったからです。2章のデメリットと見比べながら読んでみてください。
4-1. 配慮を受けながら働ける
障害者雇用のいちばんのメリットは、体調や特性に合わせた配慮を受けることを前提として働けることです。
2-6 では配慮が「ずれる」話をしましたが、裏を返せば、ずれたときに話し合える前提がある、ということでもあります。私の勤め先では、次のような配慮がありました。
- 通院のための休みは、当然の権利として取れる
- 短い時間から始めて、少しずつ勤務時間を延ばすことができる
- 転勤がない
- 変化の少ない業務に配置してもらえる
一般雇用のころの私は、徹夜も休日出勤もある仕事をしていました。通院のために休みを取るのも、どこか後ろめたかったんです。「病院に行くのでお休みします」と普通に言える環境があるだけで、体調の崩れ方はまったく違ってきます。
4-2. 大手企業で働けるチャンスが広がる
障害者雇用では、一般雇用では入りにくい大手企業に応募しやすくなります。
1-1 でお話ししたとおり、法定雇用率は従業員の数に対して決まっています。従業員が多い大手企業ほど、雇わなければならない障害のある人の数も多くなるんです。大手のグループ会社の中に、特例子会社をつくっている会社もあります。
私も、一般雇用のころは中小の会社で働いていました。それが、障害者雇用に移ったことで、大手企業のグループで働くことになりました。大手ならではの福利厚生や、会社そのものの安定感は、長く働くうえで大きな安心材料になっています。
「大手なんて自分には無理」と思っている人ほど、障害者雇用の求人を一度のぞいてみてほしいんです。一般雇用とは、見える会社の顔ぶれがかなり違いますよ。
4-3. 就職したあとも、支援機関に相談できる
障害者雇用で働く人は、会社の上司や人事だけでなく、会社の外の支援機関にも相談しながら働けます。
たとえば、就労移行支援などを使って就職した人は、就職して6か月がたったあと、「就労定着支援」(職場に定着できるよう、支援員が本人と会社の間に入って調整や相談をしてくれるサービス)を最大3年間使うことができます。
(出典:厚生労働省「就労移行支援事業等について」)
採用担当をしていたころ、支援員が一緒に会社見学に来る人と、本人だけで面接に来る人とでは、内定率も入社後の定着率もかなり違うと感じていました。会社にとっても、困ったときに間に入ってくれる人がいるのは心強いんです。

会社に言いにくいことも、支援員さんに相談していいんですか?

はい、そのための支援です。私も復職したときは、上司との面談とは別に、支援員との面談で細かい体調の変化を伝えていました。会社に直接言いにくいことほど、間に入ってもらうと話が進みやすいですよ。
就職する前から支援機関とつながっておくと、就職したあとも相談先が途切れません。就労移行支援の中には、障害の種類ごとにコースを分けて訓練している事業所もあります。
障害の種類に合わせたコースで、働く準備と就職後の相談先を一緒に整えられます。
4-4. 長く働き続けやすい
障害者雇用は、一般雇用に比べて、長く働き続けやすいことがデータでも出ています。
障害のある人が就職して1年後に同じ職場で働いている割合(職場定着率)を比べた調査があります。障害者求人で就職した人は70.4%でした。一般求人で障害を伝えて就職した人は49.9%、障害を伝えずに就職した人は30.8%です。
(出典:障害者職業総合センター「障害者の就業状況等に関する調査研究」(2017年))
障害を伝えずに一般求人で就職した人は、1年後に約7割が同じ職場にいなかったことになります。障害者求人との差は、2倍以上です。
精神障害のある人の平均勤続年数も、5年3か月まで延びています。前回の調査(2018年)の3年2か月から、2年以上長くなりました。
私自身、一般雇用では3社とも体調を崩して続けられませんでした。障害者雇用に移ってからは、同じ会社で13年以上働いています。私にとっては、給料が少し下がることより、働き続けられることのほうがずっと大きかったんです。
4-5. 企業の採用意欲が高まり、条件の良い求人も出てきている
障害者雇用はいま、働く側が選びやすい「売り手市場」(仕事を探す人より、人を採りたい会社のほうが多い状態)に近づいていると、私は感じています。
国の数字で見ると、民間企業の法定雇用率は、2.3%から、2024年4月に2.5%、2026年7月に2.7%と、段階的に引き上げられてきました。先ほどの1-3でお話ししたとおり、雇われている障害のある人は過去最多なのに、達成できている企業はまだ半分に届いていません。
(出典:厚生労働省「障害者雇用率の引上げ」)
採用の現場では、この流れはこれからも続くと受け止められていました。障害者雇用を新しく始める企業も増えています。そのぶん障害者雇用の枠は広がり、企業側の「採りたい」という気持ちは強くなっているんです。
特に感じるのは、能力の高い人には、条件や待遇を上げて迎える会社が増えていることです。これまでの経験やスキルがある人にとっては、障害者雇用でも、条件を比べて選べる時代になってきています。
どこに相談して求人を探せばいいかは、7章で選び方をまとめています。ただし、条件が良い求人ほど、求められるものも高くなります。この点は6章で、採用する側から見た話としてお話ししますね。
次の章では、私自身が一般雇用から移って13年働いてきた中で、実際に感じたデメリットと本音をお話しします。
5. 【体験談】一般雇用の3社すべてで体調を崩した私が、障害者雇用で13年働いて感じたデメリットと本音

ここからは、私自身の話です。一般雇用で働けなくなった理由、障害者雇用に移るときに迷ったこと、そして13年働いて実際に感じたデメリットまで、できるだけ正直に書きます。いま迷っているあなたが、自分と重ねながら読める材料になればうれしいです。
5-1. 一般雇用では、会社を変えても同じところで倒れた
私は一般雇用で3つの会社に勤め、そのすべてで体調を崩しました。振り返ると、問題は会社選びではなく、働き方の枠組みそのものだったんです。
23歳で就職した最初の会社は、徹夜も休日出勤もある、体力勝負の仕事でした。独身のころは何とかなっていましたが、30歳前後で結婚して父親になると、「この働き方をこの先も続けられるのか」と迷うようになりました。答えが出ないまま、迷いと仕事のハードさが重なり、不安障害を発症しています。
30代前半、働き方を変えようと事務職に転向しました。ただ、業界は未経験で実績もなく、会社を選べる立場ではありませんでした。入った職場は人間関係の負担が大きく、うつを発症して退職しています。
30代中盤、体調を少しずつ戻して、別の会社に入りました。バックオフィスの業務をすべて少人数で回す部署で、仕事量が多く、上からの圧力もかかる環境でした。それでも父親としての責任感から無理を重ね、うつが再発。休職しても体調は戻らず、入院することになりました。そこでついた診断が、双極性障害です。
環境を変えても、同じところで倒れる。3社目で、ようやくそのことに気づきました。
5-2. 担当医に障害者雇用をすすめられたとき、迷ったこと
入院中、担当医から、精神障害者保健福祉手帳を取ることと、障害者雇用という道を紹介されました。
担当医の考えは、「これまで働いてきたような環境では、同じことを繰り返す可能性が高い。それなら障害者雇用のほうが、配慮を受けながら安定して働ける可能性が高い」というものでした。
頭では分かっても、すぐには決められませんでした。気になったのは、次の4つです。
- 周りの目:障害者雇用で働くことを、周りにどう思われるか
- キャリア:これまで積み上げてきた経験が、無駄にならないか
- 給料:家族を養っていけるだけの収入になるのか
- 家族への説明:障害者雇用で働くことを、家族にどう伝えるか
どれも、2章で見たデメリットと重なっていますよね。いま迷っているあなたと、きっと同じだと思います。
それでも障害者雇用に移ると決めたのは、一般雇用で3社続けて倒れた事実があったからです。会社を変えても同じことが起きるなら、変えるべきは働き方の枠組みのほうでした。退院後、病院の社会福祉士のすすめで就労移行支援に3か月通い、休職から約1年後に特例子会社へ入社しました。
5-3. 移ってから実際に感じたデメリット
障害者雇用に移ってから、デメリットは実際にありました。私が感じたのは、次の4つです。
① 最初は契約社員だった
入社したときは契約社員で、正社員になったのは1年後でした。1年という区切りが見えていたのでまだ安心できましたが、それまでは「このまま続けられるだろうか」という気持ちがどこかにありました。
② 最初の給料は下がった
3-2でお話ししたとおり、入社したときの給料は、一般雇用のころより下がりました。ただ、年数を重ねるうちに少しずつ追いついてきています。部署や残業の多さでも、給料には差が出てきます。
③ 昇給の幅が小さい
私の勤め先では、親会社とは給料の基準が違います。そのため、一般雇用で働く親会社の社員と比べると、昇給の幅は小さめです。長く働くほど、この差はじわじわ効いてきます。
④ 親会社の制度が一部使えない
同じグループでも、親会社の社員向けの優遇制度の中には、特例子会社の社員には適用されないものがあります。グループの一員として働いていても、「ここは違うんだな」と感じる場面でした。
最初に配属された部署が合わなかったこと(3-3でお話しした経理の部署)も、入社直後はデメリットに感じていました。ただ、これは3か月目の異動で解消しています。
正直に言うと、①〜④はいまも「デメリットだな」と感じています。それでも辞めようと思わなかったのは、次にお話しする理由があったからです。
5-4. それでも13年続けられた理由
障害者雇用に移って、それで全部解決したわけではありません。移ったあとにも、体調の波は来ました。
40代後半、入社13年目のとき、私は2回目の休職をしています。10年以上の勤務で体調が戻り、様々な部署での経験が自信になって、一般雇用のころに近い仕事量をこなすようになっていました。そこに家庭の事情と仕事の忙しさが重なり、今度はうつの側に振れて、戻せなくなってしまったんです。
それでも辞めずに続けられたのは、休職・リワーク・異動という段階があったからです。
- 休職:辞めるのではなく、休んで立て直す道を選べた
- リワーク:就労移行支援の事業所で2か月、通勤と仕事の感覚を取り戻した
- 異動:復職のとき、負担の大きい部署から、入社当初に6年間いて自信を取り戻した部署へ移してもらえた。勤務地も、自宅から少し近い拠点に変えてもらえた
一般雇用のころの私には、この「段階」がありませんでした。倒れたら、辞めるしかなかったんです。
復職のときは、支援機関の担当者のすすめで「症状別対処法」も作りました。双極性障害の自分の状態を5段階に分けて、それぞれの段階で出やすい行動と対処法をまとめたものです。これを上司と支援員に渡しておいたことで、周りが先に私の変化に気づいてくれる環境ができました。休職から復職までの流れは、休職から復職までの体験談とリワークの使い方に詳しく書いています。

デメリットがあっても、移ってよかったと思いますか?

はい、思っています。給料や昇給の幅など、いまもデメリットだと感じることはあります。でも、一般雇用のままだったら、13年も同じ会社で働けていなかったはずです。私にとっては「倒れても戻ってこられる場所」があることが、いちばん大きかったんです。
私の話は、あくまで一つの例です。次の章では、採用する側で見てきた「デメリットが大きく出る人・小さく済む人」の違いをお話しします。
6. 元採用担当が見た「デメリットが大きく出る人・小さく済む人」

同じ障害者雇用で働いていても、デメリットを強く感じる人と、ほとんど気にならない人がいます。この章では、特例子会社で採用担当をしていたころに見てきた、その違いをお話しします。ここでお話しするのは勤め先の選考の基準ではなく、私個人が現場で感じてきたこととして読んでください。
6-1. 給料の差は、会社によって大きい
2-1 で「平均の数字は障害者雇用全体の目安」とお話ししました。実際に採用の現場にいると、会社ごとの給料の差はかなり大きいと感じます。
ひとつの例として、私の勤め先の話をします。前職の経験や年数にもよりますが、入社時の契約社員の期間は、年収250〜300万円ほどでスタートします。その後、役職のない社員でも400〜450万円ほどまで上がる人がいます。この年収には賞与も含まれていて、これとは別に残業代などが出ます。
採用担当をしていたころ、内定を出した人から、他社の給料と比べる話が出ることが何度もありました。その中で、給料の水準が高いと感じたのは次のような会社です。
- 大手の外資系企業
- IT企業
- メーカー
- ゼネコン(大きな建設工事を請け負う建設会社)
- 財閥系の企業グループ
「障害者雇用は給料が安い」というのは、全体で見れば事実です。ただ、会社を選べば、その平均から大きく外れる求人もあるんですよね。
6-2. 高い給料には「一般雇用と変わらない仕事の質と量」がセットになる
では、給料の高い会社を選べばいいのかというと、そう単純ではありません。
採用する側から見ていて、給料の水準が高い会社ほど、一般雇用と変わらない仕事の質と量を求めることが、ほとんどの場合セットになっていました。4-5 でお話しした「能力の高い人への条件が上がっている」の裏側が、これなんです。

給料が高いところに入れば、デメリットはなくなるんじゃないですか?

給料のデメリットは小さくなりますが、そのぶん仕事の負担は一般雇用に近づきます。体調が安定していて、上を目指したい人には合っています。でも、体調を立て直したい時期の人が選ぶと、一般雇用のころと同じことが起きかねないんです。
つまり、選ぶときの軸は次のどちらかです。
- 給料は低めでも、安定して続けられることと、配慮を大事にする
- 体調が安定しているので、条件の良いところで上を目指す
どちらが正しいということはありません。いまの自分の体調と、何を大事にしたいかで決まります。
6-3. 最初の入口は小さくても、配置で力を発揮していく人
デメリットが小さく済む人に多かったのは、「最初の仕事にこだわりすぎない人」でした。
採用の場でよく話していたのは、「この人はどの部署から始めるとよいか」ということです。たとえば、事務の経験はないけれど、販売の経験があって人当たりがよく、話すのが上手な人。こういう人は、まず窓口業務が中心の部署から始めて、会社に慣れながら事務の経験を積むのがよいのでは、という話になることが多くありました。
つまり、未経験であること自体は、落とす理由になっていなかったんです。話し合っていたのは、「入口をどこにするか」でした。
3-3 でお話ししたとおり、私自身も最初の部署が合わず、3か月目の異動で仕事が楽しくなりました。障害者雇用でも、社内にいくつも部署がある会社なら、入口の仕事がすべてではありません。入ってから合う場所を見つけていく人ほど、デメリットを感じにくいと思います。
6-4. デメリットが大きく出やすい人の共通点
反対に、入社したあとに「思っていたのと違う」と苦しんだり、早く辞めてしまったりした人もいました。振り返ると、理由はだいたい次の3つに分かれます。
- 思っていたより、仕事に求められるものが高かった
- 思っていたより、忙しかった
- 思っていた仕事と違った
3つとも、根っこは同じです。入社する前に、仕事の中身と忙しさを具体的に確かめていなかったことでした。
障害者雇用という言葉から、「配慮があるから、仕事はゆったりしているはず」と思い込んでしまう人がいます。でも、6-2 で見たとおり、会社によって求められる仕事の質と量はまったく違います。この思い込みのまま入ると、ずれがいちばん大きくなるんです。
ずれを防ぐには、求人票の言葉だけで判断しないことに尽きます。何を確かめればいいかは、次の章で具体的にお話しします。採用する側が面接で何を見ているかは、人事が本当に見ている障害者雇用の採用の本音にまとめています。
7. 移るか迷ったときの判断基準と、デメリットを小さくする求人の選び方

ここまで読んで、「結局、自分は移ったほうがいいのか」と考えているかもしれません。この章では、移るかどうかの判断基準と、移ると決めた人がデメリットを小さくするための求人の選び方をお話しします。
7-1. 一般雇用を続けるか、障害者雇用に移るかの判断チェックリスト
移るかどうかは、「いまの体調で、一般雇用の働き方を続けられるか」でほぼ決まります。次の表で、あなたに近いのはどちらの列か見てみてください。
| 確かめること | 一般雇用を続ける目安 | 障害者雇用に移る目安 |
|---|---|---|
| これまでの働き方 | いまの職場で体調を保てている | 休職や退職をくり返している |
| 通院・服薬 | 周りに言わなくても通院できている | 通院の休みや服薬の配慮が必要 |
| 体調の波 | 波はあっても自分で調整できている | 波が来たとき、周りに相談できる形が必要 |
| 収入で大事なこと | 給料の額を優先したい | 続けられることを優先したい(障害年金も含めて考える) |
| 仕事で大事なこと | 専門性や昇進を追いたい | まず安定して働き、そこから広げたい |
右の列に当てはまるものが多い人ほど、障害者雇用に移るメリットが大きくなります。
私の場合は、一般雇用で3社続けて倒れていたので、「これまでの働き方」の行ではっきり右側でした。反対に、いまの職場で体調を保てている人が、デメリットを抱えてまで急いで移る必要はありません。
7-2. 求人票と面接で確かめたい4点
移ると決めたら、デメリットを小さくできるかどうかは、求人選びでほぼ決まります。求人票で必ず確かめたいのは、次の4点です。
- 雇用形態:契約社員か正社員か。契約社員なら、正社員になった人がいるか
- 昇給:昇給があるか。あるなら、どのくらいの幅か
- 賞与:賞与があるか。あるなら、年に何回か
- 福利厚生:住宅手当、社員食堂など、額面以外の待遇
ここまでは求人票に書かれていることが多いんです。ただ、6-4 の「思っていたのと違う」を防ぐには、求人票に書かれていないことまで、面接や面談で聞いておく必要があります。
- 実際の仕事の中身と、忙しい時期
- 評価の仕組みと、目標の決め方
- 希望の部署やグループ会社へ異動できるか
「こんなことを聞いたら印象が悪くなるのでは」と心配する人もいますが、採用する側から見ると、入社後のことを具体的に考えている人だと受け取っていました。
7-3. 入社前にずれを減らす方法(会社見学・実習・トライアル雇用)
障害者雇用には、入社する前や正式に採用される前に、お互いのずれを減らすための仕組みがあります。
- 会社説明会・会社見学:職場の雰囲気や、働いている人の様子を自分の目で見られる
- 職場実習:数日〜数週間、実際の職場で仕事を体験する
- トライアル雇用:本採用の前に、一定の期間、試しに雇われて働く
- 試用期間:本採用のあと、最初の数か月で仕事との相性を確かめる期間
トライアル雇用は、ハローワークなどの紹介で使える国の仕組みです。期間は原則3か月で、精神障害のある人は最長6か月です。週10時間以上20時間未満から始めて、少しずつ時間を延ばしていく「短時間トライアル」なら、最長12か月になります。
(出典:厚生労働省「障害者トライアルコース・障害者短時間トライアルコース」)
私の勤め先でも、オンラインの会社説明会、社内見学会、入社前の実習、トライアル雇用など、入社前にずれが出ないようにする取り組みをしていました。応募するときは、こうした機会がある会社かどうかも見ておいてください。
7-4. 今の会社のまま障害者雇用に切り替える場合の注意点
転職せずに、いまの会社で障害者雇用に切り替えるという道もあります。
働いている人の障害について会社が確かめる方法には、国のガイドラインがあります。会社は、全員に同じ方法で申告を呼びかけるのが原則です。使う目的を示したうえで本人の同意を得ること、申告しないことを理由に不利益な扱いをしないことも決められています。
(出典:厚生労働省「プライバシーに配慮した障害者の把握・確認ガイドライン」)
つまり、会社に手帳のことを伝えるかどうかは、あなたが決めてよいことです。ただ、伝えたあとに仕事の内容や雇用形態、給料がどう変わるかは、会社によって違います。伝える前に、人事に「切り替えたら何が変わるのか」を確かめておくと安心です。

会社に伝えたら、給料が下がったりしないか心配です…。

その心配はもっともです。伝えることで労働条件を変える会社もあれば、条件はそのままで配慮だけ加える会社もあります。いきなり申告するのではなく、まず主治医や支援機関に相談して、会社の制度を確かめてから決めるのがおすすめですよ。
一般雇用のまま障害を伝えて働く「オープン就労」という選び方もあります(1-2 参照)。
7-5. 一人で決めきれないときの相談先
移るかどうか、どの会社を選ぶか。一人で決めきれないときは、障害者の仕事探しに詳しい人に相談するのが近道です。あなたの状況によって、合う相談先は変わります。
大きく分けると、体調が安定していてすぐに求人を探したい人は障害者専門の転職エージェント、体調や生活リズムを整えてから働きたい人は就労移行支援が向いています。代表的な相談先を、向いている人ごとにまとめました。
| 相談先 | 種類 | 向いている人 | 公式サイト |
|---|---|---|---|
| アットジーピー(atGP) | 障害者専門の転職エージェント | 障害者専門の求人を幅広く見て、比べたい人 | アットジーピー【atGP】
|
| dodaチャレンジ | 障害者専門の転職エージェント | パーソルグループの障害者専門の転職支援を使いたい人 | dodaチャレンジ
|
| atGPジョブトレ | 就労移行支援 | 障害の種類に合わせたコースで、働く準備をしたい人 | 障がい者の転職サポート実績15年以上のatGPと連携!【atGPジョブトレ】
|
| パーソルチャレンジ・ミラトレ | 就労移行支援 | 職場を再現した訓練で、働く感覚を取り戻したい人 | パーソルチャレンジ・ミラトレ
|
| Neuro Dive | 就労移行支援 | AIやデータサイエンスなど、先端のITを学んで働きたい人 | AIやデータサイエンスが学べるIT特化の就労移行支援【Neuro Dive】
|
※各サービスの詳細な条件・対応エリアは変更されることがあります。申し込み前に各公式サイトでご確認ください。
転職エージェントは、1社だけでなく2社に登録して、紹介される求人を比べるのがおすすめです。2社の違いは、atGPとdodaチャレンジの比較で詳しく書いています。
私自身、一般雇用から移るときは、就労移行支援に3か月通ってから障害者雇用に入りました。いま思えば、ここを飛ばして直接就職していたら続かなかったと思います。見学に行くときに何を聞けばいいかは、就労移行支援の見学で聞く質問20にまとめました。
まず無料で公的な窓口に相談したい人は、ハローワークの障害者専門の窓口も使えます。どの相談先も、話を聞くだけなら無料で使えるところがほとんどです。次の章では、よくある質問にまとめて答えていきます。
8. よくある質問

最後に、障害者雇用のデメリットについて、知恵袋や検索でよく見かける質問にまとめて答えます。気になるところだけ読んでも大丈夫ですよ。
Q1. 障害者雇用はやめたほうがいいですか?
一概に「やめたほうがいい」とは言えません。いまの働き方で体調を保てている人が、急いで移る必要はありません。一方で、休職や退職をくり返している人にとっては、デメリットを上回るメリットがあることが多いんです。
判断に迷ったら、7-1 のチェックリストで、どちらの列に当てはまるものが多いかを見てみてください。私の場合は、一般雇用で3社続けて倒れていたので、迷いながらも移る道を選びました。
Q2. 障害者雇用の月収はいくらくらいですか?生活できますか?
精神障害のある人の平均は、1-2 の表のとおり月14.9万円です。ただ、これは短い時間で働く人も含めた平均で、フルタイムで働くと、これより高くなることが多いです。
会社による差も大きく、6-1 でお話ししたとおり、年収400万円台まで上がる人がいる会社もあります。生活できるかどうかを考えるときは、給料だけでなく、障害年金を受け取れる場合はそれも含めた「トータルの収入」で考えてみてください(3-2 参照)。
Q3. 障害者雇用で大変なことは何ですか?
私が感じてきた「大変なこと」は、大きく3つです。
- 配慮が合わないとき、それを会社に伝えること
- 体調の波が来たときに、早めに周りに相談すること
- 障害のことを、職場のどこまで伝えるかを決めること
どれも、一人で抱え込むほど大変になります。上司や支援員など、話せる相手を早いうちに作っておくと、ずいぶん楽になりますよ。
Q4. 障害者雇用から一般雇用に戻れますか?
戻ることはできます。実際に、障害者雇用で働いたあとに、一般雇用に転職した人もいます。
ただし、一般雇用に戻ると、障害者雇用で受けていた配慮がなくなることがあります。4-4 で見たように、障害を伝えずに一般求人で就職した人は、1年後に同じ職場で働いている割合が大きく下がります。戻るなら、体調が十分に安定しているか、主治医と相談してからにしてください。
Q5. 障害者雇用でも正社員になれますか?
なれます。私も入社したときは契約社員でしたが、1年後に正社員になりました。
ただ、2-4 で見たとおり、精神障害のある人で正社員として働いている人は3割ほどです。応募するときは、「正社員になった人がいるか」「どのくらいの期間でなれるか」を確かめておくと、入ってからのずれが少なくなります。
今の会社で登用を目指す方法や、本当に正社員になれる会社の見抜き方は、障害者雇用は正社員になれない?で詳しく書いています。
Q6. うつ病でも障害者雇用で働けますか?
働けます。うつ病やそううつ病などの気分障害も、精神障害者保健福祉手帳の対象になっています。手帳を取得すれば、障害者枠の求人に応募できます。
(出典:厚生労働省「精神障害者保健福祉手帳の障害等級の判定基準について」)
ただし、手帳が交付されるかどうかは、症状によって日常生活や社会生活がどのくらい制限されているかで判断されます。いまの状態で申請できるかは、主治医に相談してみてください。
Q7. 特例子会社で働くデメリットは?
特例子会社ならではのデメリットとしては、仕事の幅やキャリアの選択肢が限られやすいこと、親会社の社員と給料の基準が違うことなどがあります。5-3 でお話しした私の体験も、特例子会社で働いて感じたことです。
特例子会社の仕事の中身や給料、向いている人については、特例子会社のリアルな働き方と給料で詳しく書いています。
まとめ|障害者雇用のデメリットは、知って選べば小さくできる

障害者雇用のデメリットは、確かにあります。私自身、13年働いてきて、いまもデメリットだと感じていることがあります。
この記事でお話ししたことを、最後にまとめます。
- 本人側のデメリットは、給料・求人数・昇進・雇用形態・周りへの伝え方・配慮のずれ・手帳の7つ
- 「やめとけ」「後悔した」の多くは、デメリットを知らずに入ったことによるずれから生まれている
- 一方で、配慮を前提に働けること、長く働き続けやすいことは、一般雇用にはない大きなメリット
- 給料も働き方も、一般雇用か障害者雇用かより、どの会社を選ぶかで大きく変わる
一般雇用の3社すべてで体調を崩した私が、同じ会社で13年働けているのは、デメリットを知ったうえで障害者雇用を選んだからです。倒れても戻ってこられる場所がある。それが、私にとって何よりのメリットでした。
もしあなたが、いま移るかどうかで迷っているなら、まずは障害者雇用の求人にどんな会社があるのか、のぞいてみるところから始めてみてください。
障害者専門の転職エージェントなら、求人票に書かれていない仕事の中身や職場の雰囲気まで聞けるので、入ってからのずれを減らせます。
どの転職エージェントを使えばいいか迷ったら、次の記事も参考にしてみてください。
●atGPとdodaチャレンジの違いと使い分けは、以下の記事にまとめています↓




コメント