はじめに
「特例子会社を辞めたい」。そう検索窓に打ち込んで、いま画面の前にいるのだと思います。
そして同時に、こうも思っていませんか。配慮してもらえる環境なのに辞めたいなんて、自分は甘えているんじゃないかと。
先に言っておきます。それは甘えではありません。辞めたいという気持ちは、いま何かを判断しなければいけない状態にあるという、ただのサインです。
サインが出ているのに何も判断しないまま3年、5年と過ぎていくことのほうが、私はよほど怖いと思っています。
この記事でわかるのは、次の4つです。
- 辞めどきかどうかを、自分の状況に当てはめて判定する具体的な基準
- 実際に辞めた人がその後どうなったのか、4つの進路とそれぞれの現実
- 特例子会社の職歴は転職で不利になるのか、採用担当が職務経歴書のどこを見ているか
- 辞めるにしても残るにしても、在職中にやっておくべきこと
書いているのは、大手企業の特例子会社に13年在籍している当事者であり、その会社で人事・採用も担当していた人間です。一般雇用で働いていた頃にうつと双極性障害を発症し、精神障害者保健福祉手帳を取得して、就労移行支援を経て障害者雇用で入社しました。
つまり私は、辞めたいと相談される側と、辞めたいと思う側の両方を経験しています。この記事の判断基準は、そのどちらの席からも見た上で書いたものです。
ひとつだけ正直にお伝えしておくと、私自身は辞めていません。13年、同じ会社にいます。だからこの記事の第6章は「辞めた体験談」ではなく、辞めたいに飲み込まれかけて、辞めずに立て直した側の記録です。
辞めた人の話が読みたい方は、第3章から読んでもらって構いません。
1. 特例子会社を「辞めたい」と感じる理由と、その正体

辞めたい理由は人それぞれ、と言われます。でも実際に相談を受けてきた立場から言うと、理由は驚くほど同じところに集まります。
この章では、まずその理由を整理します。そのうえで、多くの記事が「贅沢な悩み」として片づけてしまう「暇すぎてつらい」がなぜ起きるのかを、業務が会社に入ってくる仕組みから説明します。あなたが感じているつらさは、あなたの気持ちの問題ではないかもしれません。
1-1. 辞めたい理由は5つに集約される|給与・業務の単調さ・人間関係・キャリア・配慮のズレ
特例子会社で「辞めたい」と口にする人の理由は、ほぼ次の5つに収まります。
- 給与が上がらない……昇給幅が小さく、生活の見通しが立たない
- 業務が単調で、成長している実感がない……同じ作業の繰り返しで一日が終わる
- 人間関係のストレス……社員同士のトラブル、指導員や上長との相性
- キャリアが頭打ちに見える……この先どうなるのかが描けない
- 配慮のズレ……配慮はあるが、自分が本当に必要としている配慮ではない
Yahoo!知恵袋に実際に投稿された相談を読むと、この5つがそのまま言葉になっています。入社したばかりの方が「セルフレジの業務があまりにもやることがなくて暇すぎる。意味があるのか」と書いていたり、5年勤めた方が退職の切り出し方に悩んでいたり。
5年経っても悩みの中身が変わらないというのが、この領域の特徴なんですよね。
(出典:Yahoo!知恵袋)
5つのうち、1の給与については別記事で年収の内訳や昇給の仕組みまで詳しく書いています。数字ベースで知りたい方は特例子会社のリアル、実際どう?|現職障害当事者がぶっちゃけ経験談を語るをどうぞ。
ここで大事なのは、5つのうちどれが自分の主因なのかを特定することです。理由が違えば、打つべき手も、辞めるべきかどうかの答えも変わります。
5つ全部が該当する人はほとんどいません。だいたい1つか2つが核にあって、そこから他の不満が芋づる式に見えているだけ、というケースが多いんです。
1-2. 「暇すぎてつらい」は贅沢な悩みではない|仕事が回ってこない構造的な理由
5つの理由の中で、いちばん誤解されているのが2番目の「業務の単調さ」、とくに暇すぎてつらいというやつです。
「仕事がなくて楽なんだから贅沢だ」と言われがちですよね。でも、やることがない8時間を毎日座って過ごすのは、忙しさとは別種のしんどさがあります。しかも自分の存在意義まで疑い始めるので、精神的なダメージは決して小さくありません。
なぜこれが起きるのか。理由は、特例子会社に仕事が入ってくる仕組みにあります。
特例子会社の多くは、親会社やグループ会社が本来社内でやっていた業務を切り出して、それを請け負う形で成り立っています。つまり、親会社側が切り出せる業務の量が、そのまま自社の仕事量の上限になるわけです。
自分で新規の顧客を開拓して仕事を取ってくる会社とは、構造がまったく違います。
私の会社の場合は、親会社とグループ適用されている会社の事業領域が広く、そこから社内アウトソーシング(社内業務の外部委託のこと)として業務を受注しているケースがほとんどでした。事業領域が広いぶん切り出せる業務の種類も多く、私自身も在籍中に複数の部署を経験させてもらっています。
逆に言えば、親会社の事業が一つの領域に偏っている会社では、業務の供給が細くなりやすいということでもあります。
ここに、もうひとつの事情が重なります。民間企業の法定雇用率は2024年4月から2.5%でしたが、2026年7月に2.7%へ引き上げられ、対象となる企業規模も常用労働者40.0人以上から37.5人以上に拡大されました。
雇用の枠が先に増えて、業務の切り出しが後追いになると何が起きるか。人はいるのに、渡す仕事がないという状態です。
あなたの席に仕事が来ないのは、あなたの能力が低いからではなく、上流でまだ業務が切り出されていないから、という可能性が十分にあります。

じゃあ、私が仕事を頑張っても意味がないってことですか…?

そうではないんです。ただ「もっと頑張れば仕事をもらえるはず」と自分を責め続けても解決しない種類の問題がある、ということですね。この場合に効くのは頑張ることではなく、業務がどこから来ているかを上長に聞いてみることだったりします。
1-3. 辞めたいのに動けない本当の理由|配慮のある環境を手放す怖さ
辞めたい理由がはっきりしているのに動けない。この状態にいる人が、いちばん多いと思います。理由は単純で、いまの環境にある配慮を失うのが怖いからです。
特例子会社には、通院のための休暇が当たり前の権利として運用されている、短時間勤務から始められる、転勤がない、体調に波があることを前提に業務が組まれている、といった配慮があります。これは制度として整えられているものであって、頼み込んで例外的にもらっているものではありません。
一般雇用のクローズ就労(障害を開示せずに働くこと)と何がいちばん違うか。私は体調が安定しないときの相談のしやすさだと思っています。
通院で午後休を取るときに理由を考えなくていい。調子が落ちてきたときに「今週きついかもしれません」と言える相手がいる。この差は、実際に両方を経験すると想像以上に大きいんですよね。
だから「辞めたい」と「辞められない」が同時に成立します。矛盾しているようで、まったく矛盾していません。
ただし、ここで区別しておきたいことがあります。配慮があることと、その配慮が自分に合っていることは別だという点です。
たとえば精神障害は見た目で判断がつきにくいので、配慮を機能させるには上長からチームへの情報共有が要ります。ところが個人情報保護の観点から、チームリーダー以外は配慮事項を知らされていないケースもある。
すると制度上は配慮があるのに、日々の現場では「なぜあの人だけ休むのか」という空気が生まれます。制度としての配慮は受け取っているのに、体感としては配慮されていない。このズレが、5番目の理由の正体です。
いま感じている「辞めたい」が、配慮そのものへの不満なのか、配慮の運用のされ方への不満なのか。ここを分けておくと、次の章の判断がぐっとやりやすくなります。
辞めたい理由は5つに集約され、そのうち「暇でつらい」は業務の供給構造から説明がつく問題でした。そして動けない理由は、配慮を手放す怖さにあります。では、その怖さを抱えたまま、辞めるべきか残るべきかをどう判断すればいいのか。次の章で、判定の基準そのものを作っていきます。
2. 辞めどきの判定基準|「辞めて正解だった人」と「早まった人」の分かれ目

この章が、この記事でいちばん読んでほしいところです。
「辞めた方がいいサイン」を挙げている記事はたくさんあります。でも「まだ辞めない方がいいサイン」を書いている記事を、私は上位10記事の中に1本も見つけられませんでした。
辞めたいと検索している人に向けて書かれているのだから当然といえば当然なんですが、実際に検索している人の多くは、まだ決めきれていない状態にいますよね。だから両方の基準を出します。そのうえで、切り分けの質問とチェックリストまで用意しました。
2-1. 辞めた方がいいサイン4つ
まず、辞める方向で本気で考えた方がいいサインから。
- 体調や症状が悪化してきている……通院の頻度が増えた、薬の調整が続いている、睡眠が崩れたまま戻らない
- 働く意欲そのものがなくなってきた……業務内容への不満ではなく、朝起きること自体がしんどい
- 配慮の申し出が繰り返し通らない……一度ではなく、複数回、別の相手に伝えても状況が変わらない
- 1年後・3年後の自分がこの会社にいる姿を、まったく想像できない……想像したくないのではなく、像が浮かばない
1と2については、辞める辞めない以前に、まず主治医に現在の状態を伝えてください。退職という大きな決断は、体調がいちばん落ちているときにするものではありません。
休職という選択肢が先に来るケースもあります。判断の順番を間違えると、辞めた後で立て直しに時間がかかります。
なお、傷病手当金や自立支援医療などの利用可否は、加入している健康保険や自治体、個々の状況によって扱いが変わります。制度の適用については、お住まいの自治体の障がい者福祉担当窓口や、加入先の健康保険組合、主治医にご確認ください。
3が重要です。一度断られただけなら、伝え方や時期の問題かもしれない。でも相手を変え、時期を変え、書面にして伝えても動かないなら、それは個人の相性ではなく組織の運用の問題です。ここは環境を変えるしかありません。
2-2. 「まだ辞めない方がいい」サイン4つ
次に、逆側です。以下に当てはまる場合、辞める前にやれることが残っています。
- 限界に近いことを、上長にも支援員にも一度も伝えていない
- 不満の対象が「会社」ではなく、特定の部署・特定の人に絞れる
- 直近3ヶ月以内に、体調や生活環境に大きな変化があった
- 辞めた後のイメージが「今より楽になる」だけで、具体的な生活が描けていない
1について、私自身の失敗を書きます。
体調に異変が出始めていた時期、私は誰にも言えませんでした。理由は単純で、チーム全体が忙しかったからです。周りに迷惑がかかる。マネージャーも忙しそうで弱音を吐ける雰囲気じゃない。そうやって言うタイミングを逃し、相談した時には限界ギリギリでした。
結果どうなったか。そこから巻き返すことは難しく、体調を崩して休職に入りました。4ヶ月です。
いま人事側の目線で振り返ると、はっきりわかります。早めに「きついかもしれません」と言われる方が、周りの負担は圧倒的に小さいんです。
業務量の調整なら数日で済んだものが、休職になれば代替要員の手配、引き継ぎ、復職支援まで発生します。迷惑をかけまいとした結果、いちばん大きな迷惑をかけていた。これが当時の私です。
だから1に当てはまる人には、辞める前に一度だけ伝えてみてほしい。それで何も変わらなければ、そのときは2-1の3番目に該当します。堂々と次へ進めばいい。
3についても補足します。私は外的要因に引っ張られやすいタイプなので、他人と比べるのではなく、過去の自分と比べるようにしています。今の「辞めたい」が、環境の変化に反応している一時的な波なのか、半年前から一貫して同じことを言っているのか。ここを見誤ると、波が引いた後に後悔します。
2-3. 会社の問題か、部署の問題か、自分の状態の問題か|切り分ける3つの質問
サインだけでは決めきれないと思います。そこで、切り分けのための質問を3つ用意しました。紙に書いて答えてみてください。
質問1|その不満は、部署が変わっても残りますか?
残らないなら部署の問題です。特例子会社は同じ会社でも部署ごとに業務量も雰囲気も大きく違います。会社を辞める前に、異動という選択肢が先にあります。
質問2|それは制度の問題ですか、それとも運用している人の問題ですか?
給与テーブルや評価制度そのものに天井があるなら、これは会社の問題で、個人の努力では動きません。一方、上長が配慮事項を共有してくれないといった話は運用の問題で、担当者が変われば解消することがあります。
質問3|半年前の自分も、同じことを言っていましたか?
言っていたなら、それは波ではなく傾向です。言っていなかったなら、直近3ヶ月に何が起きたかを先に振り返る価値があります。
2-4. 辞めどき判定チェックリスト(12項目)
最後に、ここまでの内容をチェックリストにまとめます。A群・B群それぞれ、当てはまる項目を数えてください。
| 群 | 項目 |
|---|---|
| A | 通院の頻度が増えた、または薬の調整が続いている |
| A | 朝、起きること自体がしんどい状態が2週間以上続いている |
| A | 配慮の申し出を、相手や時期を変えて複数回伝えたが変わらなかった |
| A | 給与や評価の天井が制度として決まっており、動かないと確認できている |
| A | 1年後・3年後にこの会社にいる自分の像が浮かばない |
| A | 半年前の自分も、同じ理由で辞めたいと言っていた |
| B | 限界に近いことを、上長にも支援員にもまだ伝えていない |
| B | 不満の対象が、特定の部署・特定の人に絞れる |
| B | 直近3ヶ月以内に、体調や生活環境に大きな変化があった |
| B | 辞めた後の生活が「今より楽になる」以上に具体化していない |
| B | 異動や勤務地変更を、まだ会社に相談していない |
| B | 配慮そのものではなく、配慮の運用のされ方に不満がある |
- A群が4つ以上……環境を変える段階に来ています。第3章以降を読み進めてください
- B群が4つ以上……辞める前に打てる手が残っています。第5章を先に読んでください
- AもBも3つ前後……判断材料が足りていない状態です。第3章で辞めた人のその後を見てから、もう一度この表に戻ってきてください

A群もB群も同じくらい当てはまってしまいました…。決められません。

それが普通ですよ。というより、両方に当てはまる人がいちばん多いです。その場合に大事なのは、いま結論を出すことではなく、両方の準備を同時に進めることなんです。社内で異動を相談しながら、外の求人も見ておく。どちらかに決めてから動くと、片方の選択肢が消えてしまいますからね。
A群が優勢だった方へ。次の一歩は「今すぐ辞めること」ではなく、在職中に外の状況を知っておくことです。
障害者雇用に特化した転職エージェントなら、登録だけしておいて求人を眺めることができます。実際に応募するかどうかは、後から決めて大丈夫です。
辞めた方がいいサイン、まだ辞めない方がいいサイン、切り分けの3質問、そしてチェックリスト。これで「自分がどちら寄りか」の輪郭は見えたはずです。ただ、判断にはもう一つ材料が要ります。実際に辞めた人が、その後どうなったのかです。
3. 特例子会社を辞めた人のその後は?4つの進路と実際どうなったか

ここからが、あなたがいちばん知りたかったところだと思います。辞めた人は、その後どうなったのか。
先に断っておくと、私はこの4つのうち4番目を選んだ人間です。だから1〜3については、辞めていった同僚を見送った側の観察と、公開されている当事者の記録から書きます。自分の体験として語れないところは、そう書きます。そのほうが、あなたの判断材料として正確だと思うので。
3-1. 進路A:一般企業の障害者雇用へ転職する
いちばん多い進路です。特例子会社を辞めた人の相談で「次はどこへ」と聞くと、まずこれが出てきます。
得られるものは、業務の幅と給与水準です。特例子会社が親会社から切り出された業務を担うのに対し、一般企業の障害者雇用枠は事業の本流に近い部署に配属されることがあります。担当できる業務の種類が増え、評価制度も一般社員と同じテーブルに乗るケースが出てきます。
一方で、失うものもはっきりしています。配慮の手厚さが下がります。
特例子会社では、支援員や心理職が社内にいる、体調の波を前提に業務が組まれている、通院休暇が当たり前に運用されている、といったことが標準装備です。一般企業では、これらは「個別に交渉して獲得するもの」に変わります。制度としてはあっても、現場の運用が追いついていない会社は珍しくありません。
Yahoo!知恵袋にも「特例子会社(障害者雇用)から一般企業(障害者雇用)への転職って、不利な点はありますか?」という質問が2025年10月に投稿されていました。同じことを考えている人は、確実にいます。
(出典:Yahoo!知恵袋)
この「不利かどうか」への答えは、次の第4章でまるごと扱います。
この進路が向くのは、体調が安定していて、業務の物足りなさが辞めたい理由の中心にある人です。逆に体調が落ちている状態でこの進路を選ぶと、配慮の薄い環境で立ち上がることになり、かなり厳しくなります。
3-2. 進路B:別の特例子会社へ移る
意外と知られていない進路です。「特例子会社そのものが合わなかった」と結論づける前に、会社ごとの差がどれくらいあるかを知っておく価値があります。
第1章で、親会社から切り出せる業務量が自社の仕事量の上限になると書きました。この構造がある以上、親会社の事業領域の広さがそのまま働きやすさに直結します。
事業が多角化しているグループの特例子会社と、単一事業の特例子会社とでは、任される業務の種類も異動の選択肢もまるで違うんですよね。見極めのポイントは3つです。
- 業務がどこから来ているか……親会社の何部門から、どれくらいの種類の業務を受注しているか
- 社内で異動できるか……部署間の異動実績があるか、希望を出せる制度があるか
- 雇用形態と昇給の設計……正社員登用の実績、契約社員なら更新上限と無期転換の扱い
これらは求人票には書かれていません。会社説明会や職場見学、入社前実習の場で直接聞くしかない情報です。
採用側にいた立場から言うと、この質問をしてくる応募者は「よく調べている人」として印象が良いので、遠慮せず聞いて大丈夫です。
3-3. 進路C:就労移行支援やリワークで立て直してから動く
体調が落ちている状態で辞めた人が、次に選ぶことが多い進路です。そしてここは、うまくいく場合と、そうでない場合の差が大きいところでもあります。
うまくいかないパターンを先に書きます。当事者の投稿に、退職後に就労移行支援を利用したものの「会社勤めのトラウマを思い出してしまい、すぐに辞めることになった」という記録がありました。退職の疲れが抜けきらないまま次のプログラムに入ると、こうなることがあります。
(出典:COMHBO地域精神保健福祉機構 当事者投稿)
つまり、辞める→すぐ通所、という順番が必ずしも最適ではないということです。休養の期間を挟むかどうかで、その後の立ち上がりが変わります。
なお、退職後の雇用保険(失業給付)の受給条件や、傷病手当金との関係、自立支援医療の継続手続きなどは、退職理由の区分や加入状況によって扱いが大きく変わります。ここは記事の一般論で判断せず、お住まいの自治体の障がい者福祉担当窓口とハローワーク、主治医にご確認ください。順番を間違えると、受けられたはずの支援を逃すことがあります。
在職中に休職して立て直す選択肢もあります。私自身はこちらでした。リワークと就労移行支援の使い分けについては、休職から復職の体験談|リワークと就労移行支援の使い分け、元人事が明かす実例に実際の手続きと期間をまとめてあります。
体調とスキルの両方を立て直したい場合、就労移行支援は選択肢になります。事業所によって扱うプログラムがまったく違うので、情報技術系のスキルを身につけたいのか、生活リズムから整えたいのかで選び先が変わります。
まずは生活リズムと働く体力から整えたい方は、総合的な訓練を扱う就労移行支援から見てみてください。
3-4. 進路D:社内で異動・時短に切り替えて残る
4つ目です。そして、この選択肢を「その後」として扱っている記事を、私は他に見たことがありません。
辞めるか続けるかの二択で考えていると、この進路は視界に入りません。でも実際には、会社を辞めずに環境だけを変えるという道があります。
私の場合がそうでした。4ヶ月の休職から復職するとき、休職前に在籍していた負担の大きい部署ではなく、入社当初に数年在籍して自信を取り戻すきっかけになった部署へ異動させてもらいました。勤務地も、自宅から通いやすい場所に変更してもらっています。
これができたのは、特例子会社だったからだと思っています。業務の切り出し元が複数あるぶん配属先の選択肢があり、体調に応じた配置転換が制度としてではなく実務として回っていた。同じことを一般企業の障害者雇用枠で頼んだら、通ったかどうかはわかりません。
ただし、この進路が成立する前提が2つあります。
- 異動できるだけの部署数がある会社であること
- 異動を相談できる関係が、上長または支援員との間にあること
2がない状態でいきなり異動を申し出ても、まず通りません。第2章のB群に「まだ伝えていない」を入れたのは、この順番が理由です。
3-5. 「辞めてよかった」と「人生終了」を分けたのは何か
「特例子会社 辞めてよかった」と「特例子会社 人生終了」。この2つは、どちらも実際に検索されている言葉です。同じ会社を辞めた人が、なぜここまで違う結論に行き着くのか。
辞めてよかったと語る人の理由を整理すると、キャリアアップの機会に限界を感じていた、給与水準への不満があった、職場環境や業務内容が合わなかった、一般就労に挑戦したかった、といったところに集まります。
(出典:株式会社Reinolz コラム)
共通しているのは、辞めた理由が「今の環境の何が足りないか」で言語化されているという点です。次に何を取りに行くかが決まっているから、転職先で得たものと照らして「よかった」と評価できる。
一方で厳しい結果になりやすいのは、次のパターンです。
- 辞めた理由が「もう限界だった」だけで、次に取りに行くものが決まっていない
- 体調がいちばん落ちているタイミングで退職を決めた
- 在職中に情報収集を一切していない
3つとも、第2章のB群と重なります。分かれ目は転職先の良し悪しではなく、辞める前に何を整理していたかなんですよね。ここが、この記事で「辞める前」の章を厚くしている理由です。

私、正直「もう限界」しか言えないです。次に何がしたいかなんて考えられません。

それでいいと思いますよ。限界のときに将来設計はできません。ただ、その状態で退職届を出すのだけは待ってほしいんです。限界と退職の間に、休職や異動といった段階があるので。次にやりたいことは、体調が戻ってから考えても遅くないですから。
4つの進路と、結果を分けるものを見てきました。ただ、進路Aを選ぼうとするとき、必ずぶつかる不安があります。特例子会社の職歴は、次の会社で評価されるのか。
4. 特例子会社の職歴は転職で不利か?採用担当が職務経歴書で見ている3点

Googleで「特例子会社」と検索すると、関連する質問に「特例子会社への転職は不利ですか?」が出てきます。知恵袋にも同じ質問が投稿されている。それだけ多くの人が抱えている不安なのに、上位に出てくる記事のほとんどが、当事者側からの推測で答えています。
この章は、採用側の席から書きます。私は自社の人事・採用を担当し、就労移行支援事業所やエージェントの担当者と求人や説明会で直接やり取りをしてきました。その立場で、実際に職務経歴書のどこを見ていたかを書きます。
4-1. 結論:不利になるのは「特例子会社だから」ではなく、書き方で伝わらないから
先に結論です。特例子会社という在籍先そのものが減点材料になることは、まずありません。
減点されるとしたら、それは職務経歴書を読んでも何ができる人なのかが伝わらないときです。そしてこれは、特例子会社出身者に起きやすい。理由は在籍先ではなく、業務の書き方にあります。
特例子会社の業務は、親会社から切り出された形で降りてきます。だから社内では「◯◯部からの受託業務」といった呼ばれ方をしていて、それをそのまま職務経歴書に書くと、外部の人間には何をしていたのかまったく見えません。
つまり不利なのは職歴ではなく、翻訳が済んでいない状態なんです。翻訳の仕方は4-3で具体的に書きます。
4-2. 採用側が見ているのは病名ではなく勤務の安定性
これは何度でも言いたいことなんですが、採用担当は病名を見ていません。
もちろん応募書類に記載はあります。でも、そこで合否が決まることはほぼない。実際に見ているのは、次の6つです。
- 現在の体調……診断名ではなく、いまどういう状態にあるか
- 自己理解の深さ……自分の特性と、崩れるときのパターンを把握しているか
- 配慮事項の明確さ……何をしてもらえれば働けるかを、具体的に言えるか
- 継続勤務の可能性……長く働けそうか
- 就労準備の状況……生活リズム、通勤、体調管理ができているか
- 困ったときに相談できるか……ひとりで抱え込まずに声を上げられるか
この6つを一言でまとめると、人事の本音は「一緒に働くイメージが持てるかどうか」に近いです。障害の種別でもなければ、優秀かどうかでもありません。
だから、配慮事項を具体的に書ける人は強いんです。「体調に波があります」だけだと相手は何も想像できませんが、「疲労が蓄積すると朝の立ち上がりが遅くなるので、始業時刻を30分後ろにずらせると安定します」と書いてあれば、受け入れる側は具体的な段取りを頭の中で組めます。それが安心材料になる。
この採用側の判断軸については、障害者雇用で人事が本当に見ている本音|元採用担当が明かす採用される人の特徴でさらに踏み込んで書いています。
4-3. アウトソーシング業務を「実務経験」として翻訳する書き方
4-1で挙げた翻訳の話です。ここが、この章のいちばん実用的なところだと思います。やることは単純で、社内呼称ではなく、一般の職種名と成果物で書き直す。それだけです。
| 社内での呼ばれ方(NG) | 職務経歴書での書き方(OK) |
|---|---|
| 親会社◯◯部からの受託業務 | 経理補助(月次の伝票起票・仕訳入力、月間◯◯件規模) |
| 社内サポート業務 | 社内問い合わせ窓口(一次対応・エスカレーション判断・FAQ整備) |
| 事務センター業務 | 総務事務(備品・契約管理、社内文書の作成と配布フロー運用) |
| 新人フォロー | 新入社員のOJT担当(業務手順書の作成、習熟度に応じた指導) |
ポイントは3つです。
- 業務の呼び名ではなく、動詞で書く……「担当していました」ではなく「起票していました」「整備していました」
- 規模と頻度を入れる……件数、頻度、対象人数。数字があると業務の実態が伝わります
- 改善した点を1行入れる……手順書を作った、フローを変えた、といった話は職種を問わず評価されます
特例子会社で複数の部署を経験している人は、実はここが強みになります。総務も経理も社内窓口も一通り回した人材は、事務職としての守備範囲が広いからです。
私自身、在籍中に複数の部署を経験させてもらいましたが、これは業務が親会社の複数部門から切り出されている構造だからこそ起きたことでした。
採用担当をしていた頃、内定者から他社との条件比較で相談を受ける機会が何度もありました。給与水準が高いと感じたのは、大手外資系、情報技術系企業、メーカー、ゼネコン、財閥系といったあたりです。
ただしそこには交換条件があって、給与に見合う、一般雇用と変わらない仕事の質と量を求められるケースがほとんどでした。条件だけで選ぶと、この部分が後から効いてきます。
4-4. 面接で退職理由をどう伝えると通るか|NG回答と言い換え
退職理由は必ず聞かれます。そして、ここで落ちる人がいます。
まず前提として、採用側は「不満があって辞めた」こと自体を減点していません。不満がなければ転職しないので当然です。見ているのは、その不満が次の会社でも再発するかどうかだけ。
| NG回答 | 何が問題か | 言い換え例 |
|---|---|---|
| 業務が単調でつまらなかった | 次も単調だと辞めると読まれる | ◯◯の経験を活かして、業務改善まで関われる環境で働きたい |
| 人間関係が合わなかった | 再発予測ができない | 相談の経路が明確な環境のほうが、自分は安定して働けると分かった |
| 給料が低かった | 条件だけで動く人と見える | 担当範囲を広げて評価につなげたい。前職は業務範囲が固定されていた |
| 体調を崩したので(説明のみ) | 再発時の対処が見えない | 体調を崩した経験から、崩れる前のサインと対処法を整理した。現在は◯◯で安定している |
コツは、過去の不満を語らず、次に取りに行くものを語ることです。同じ事実でも、主語を「前の会社が」から「自分が」に変えるだけで印象がまったく変わります。
そしてもうひとつ。4-2で挙げた6つの判断軸のうち「困ったときに相談できるか」を、この場で証明できます。体調を崩した経験を、隠さず、かつ対処とセットで話せる人は、採用側からするとかなり安心なんですよね。
4-5. 出戻り・再入社は可能か
「絶対に出戻りさせてはいけない退職者の特徴は?」という質問が、Googleの関連する質問に出てきます。それだけ気になる人が多いということでしょう。
結論から言うと、特例子会社への出戻りは、制度上ありえない話ではありません。業務内容も社内の事情も分かっている人材なので、受け入れ側の教育コストが低いからです。
ただ、元人事としての実感で言うと、歓迎されやすい辞め方とそうでない辞め方があります。
- 歓迎されやすい……退職理由を事前に伝え、引き継ぎを終え、在籍中の関係が良好なまま辞めた
- 難しくなりやすい……連絡がつかなくなった、引き継ぎが未了のまま辞めた、退職時に強い対立があった
要するに、辞め方が次の可能性を決めるということです。第5章で退職の伝え方と手続きの順番を扱いますが、あれは単なるマナーの話ではなく、こういう実利がある話でもあります。

出戻りなんて、恥ずかしくてできない気がします。

そう感じる方は多いですね。でも受け入れる側から見ると、外を見てきた人が戻ってくるのは、むしろ会社にとって情報が増えることなんです。恥ずかしいと思っているのは本人だけ、というのはよくあります。
在職中に自分の職歴が外でどう評価されるかを知りたい方は、障害者雇用に特化したエージェントで職務経歴書の書き方まで相談できます。応募の意思が固まっていなくても大丈夫です。
特例子会社の職歴が不利になるのは、在籍先のせいではなく翻訳が済んでいないから。採用側が見ているのは病名ではなく6つの判断軸で、退職理由は「次に取りに行くもの」で語れば通る。そして辞め方は、出戻りという可能性まで左右します。
5. 辞める前に在職中にやっておくべきこと|順番を間違えると詰む

第2章のB群に多く当てはまった方も、A群が優勢だった方も、この章は読んでください。残る場合も辞める場合も、やることはほとんど同じだからです。
そして順番が大事です。辞めてから始めると、選べたはずの道が消えていることがあります。
5-1. 先に社内で試せる3つの打ち手
外に出る前に、社内で試せることが3つあります。
- 異動を相談する……部署が変われば業務も人も変わります
- 勤務時間を落とす……短時間勤務や時差出勤で、体力の負担を下げる
- 配慮事項を設定し直す……入社時に決めた配慮が、いまの自分に合っているとは限りません
第3章で書いたとおり、私自身は1でした。あのときの詳しい経緯は第6章で書きます。ここでは、相談を持ちかけるときの実務の話に絞ります。
いちばんつまずきやすいのが、3の「配慮事項の設定し直し」です。入社時に決めた配慮を、そのまま何年も更新していない人がとても多いんですよね。体調も業務内容も変わっているのに、配慮だけが入社時のまま止まっている。
配慮を見直すときは、次の3点をそろえて持っていくと話が早く進みます。
- いま困っていること(例:午後に集中力が落ちて、確認作業でミスが増えている)
- こうしてもらえれば働けるという案(例:確認が必要な作業を午前に寄せたい)
- それによって会社側が得られること(例:ミスの手戻りが減る)
3つ目が入っているかどうかで、通りやすさが変わります。お願いではなく提案の形になるからです。採用側にいた立場から言っても、この形で持ってこられると断る理由がありません。
伝える相手も選びます。直属の上長が動いてくれないなら、支援員、産業医、人事部門と経路は複数あります。第2章で「相手を変えて複数回」と書いたのは、この経路のことです。
5-2. 在職中に情報だけ集めておく
これが、辞めてから後悔する人がいちばん多いところです。
退職してから求人を探し始めると、何が起きるか。収入がない状態で選ばなければいけなくなります。焦りが出れば条件を下げますし、体調が落ちていればなおさら判断が鈍る。
第3章で「辞めてよかった」と「そうでなかった」を分けたものとして、在職中の情報収集を挙げたのはこのためです。在職中にやっておきたいのは、次の3つだけです。
- 求人を眺める……どんな仕事が、どのくらいの条件で出ているかを知る
- 職務経歴書を作っておく……第4章の翻訳作業を、時間があるうちに済ませる
- 相談先を1つ確保する……転職エージェントでも、通っていた支援機関でも構いません
応募する必要はありません。登録して、眺めるだけでいいんです。それだけで「辞めたら終わり」という感覚が薄れて、判断が落ち着きます。

まだ辞めると決めていないのに、転職の相談をしてもいいんでしょうか。

まったく問題ないですよ。むしろ「まだ迷っている」と正直に伝えたほうが、相手も適切な情報をくれます。人事側にいたときも、迷っている段階で情報を取りに来る人は準備が早いなという印象でした。決めてから動く必要はないんです。
5-3. 退職の申し出は何ヶ月前が適切か|引き継ぎと有給消化の順番
実際に辞めると決めたら、順番があります。
知恵袋にも「辞めさせてもらえない」という相談が投稿されていました。回答では、辞める日の3ヶ月前に申し入れて上長と相談するという流れが挙げられています。突然「今月末で」と言われると会社側も対応できないので、これは現実的な線だと思います。
(出典:Yahoo!知恵袋)
私が見てきた実務でも、余裕を持って伝えた人ほど円満に終わっています。おすすめの順番はこうです。
- 2〜3ヶ月前……直属の上長に口頭で意思を伝える
- 上長との合意後……退職日を決める。ここで残っている有給休暇の日数を確認する
- 退職日の1ヶ月前まで……引き継ぎ資料を作り始める
- 最終出社日から逆算……有給休暇を消化する期間を確保する
順番でいちばん間違えやすいのが、有給休暇です。退職日を先に決めてしまうと、有給が消化しきれずに捨てることになります。残日数を確認してから退職日を置くのが正解ですね。
契約社員の方は、更新のタイミングも判断材料になります。知恵袋にも「どのタイミングでどう辞めるのが適しているか」という相談がありました。更新直前に辞めると引き継ぎ期間が取りにくいので、次の更新をしない意思を、更新面談の場で伝えるのがいちばん角が立ちません。
そして第4章の最後に書いたとおり、辞め方は出戻りの可能性まで左右します。引き継ぎを終えて辞めるのは、相手のためだけではなく自分の選択肢を残すためでもあるんです。
5-4. 辞める前に確認しておく手続き
最後に、手続きの確認です。ここは記事の一般論で判断してはいけない部分なので、確認先を明記します。在職中に確認しておきたいのは、次の4つです。
- 雇用保険(失業給付)の受給開始時期と期間……退職理由の区分によって、待つ期間が変わります
- 健康保険をどうするか……任意継続、国民健康保険、家族の扶養に入るなど選択肢があります
- 傷病手当金の扱い……受けている、または受ける可能性がある場合、退職後も続くかは条件次第です
- 自立支援医療や障害者手帳に関する手続き……住所や加入保険が変わると、変更届が必要な場合があります
これらは退職理由の区分、加入している健康保険、お住まいの自治体、個々の状況によって扱いがまったく変わります。お住まいの自治体の障がい者福祉担当窓口、ハローワーク、加入先の健康保険組合、そして主治医にご確認ください。
特に傷病手当金と失業給付は同時に受け取れない期間があるので、順番を間違えると受け取れたはずのお金を逃します。
在職中なら、会社の人事部門にも聞けます。辞めると言う前に制度だけ聞くのは、まったく問題ありません。「一般論として知りたい」と前置きすれば普通に答えてもらえます。
社内で試せる3つの打ち手、在職中の情報収集、退職の順番、そして手続きの確認先。ここまでが「辞める前」の全部です。次の章では、この順番を実際に踏んだ私自身の話を書きます。
6. 13年在籍した私が「辞めたい」に飲み込まれかけた時期と、辞めずに立て直せた理由

ここまで判断基準や手順の話をしてきましたが、この章だけは私自身の話です。
先に正直に言っておきます。私は辞めていません。だからこれは成功談ではなく、辞める寸前まで行って、別の道で立て直した人間の記録です。同じ選択をすすめるつもりはありません。
ただ、辞める以外の道がどう見えるかを知っておくことは、あなたの判断材料になると思っています。
6-1. 40代後半、業務量が戻った先で崩れた
崩れたのは、うまくいっていた時期の延長線上でした。
一般雇用で働いていた頃にうつと双極性障害を発症して、精神障害者保健福祉手帳を取得し、就労移行支援を経て特例子会社に入社しました。そこから10年以上。体調は徐々に戻り、社内でいくつもの部署を経験させてもらって、その経験が自信になっていました。
40代後半に差しかかった頃には、一般雇用で働いていた頃に近い業務量をこなすようになっていました。気づけば服薬を忘れることも増えていた。長年安定していたという慢心が、たぶんあったんだと思います。
いま振り返れば、あれは双極性障害の躁の状態だったのかもしれません。調子がいいと感じているときほど、実は危ないんですよね。
そこに家庭の事情と仕事の忙しさが重なりました。今度はうつの側に振れて、そのまま戻せなくなりました。
体重が10kgほど落ちました。ストレスで悪いことばかり考えて、起き上がるのも大変で寝てばかりいたので、歩くのもしんどい。正直に言って、復職できるのか不安でした。
このとき私がやってしまった最大の失敗は、第2章に書いたことです。異変が出始めていた時期に、誰にも言わなかった。チームが忙しかったから、迷惑をかけたくなかったから。その気遣いが、結果として4ヶ月の休職につながりました。
6-2. 辞める代わりに選んだのは「休職とリワーク」だった
休職に入って最初にやったのは、何もしないことでした。
主治医から「薬の調整をして、2〜3週間から1ヶ月ほどで徐々に体調が戻ってくる」と言われて、その言葉を信じることにしました。やったのは2つだけです。とにかく安静にすること。そして、足の筋肉が衰えないように歩くこと。
1ヶ月弱で、意欲が湧いてくるのを感じました。ウォーキングも1日1万歩まで増やして、朝も規則正しく起きられるようになった。ここまでで、休養期間として約1ヶ月です。
次の問題は、通勤とフルタイム勤務に戻るにはどうしたらいいか、でした。そこで思いついたのが、以前の休職のときに通った就労移行支援でした。人事・採用を担当していた縁で支援機関とのつながりが多かったので、いまの自分に合う場所を選ぶことができました。
事業所に出した条件は2つです。
- 通勤の練習になるよう、電車で30分くらいかけて通える場所であること
- これまで学んだことのなかった分野を扱っていること
ここで壁にぶつかりました。短期間の受け入れは、事業所によってはかなり難しいという事実です。
このとき初めて知ったのですが、通常の就労移行支援は6ヶ月から1年半程度の利用を前提としています。短期の場合は復職に向けたリワーク(職場復帰の準備プログラム)という形になりますが、1ヶ月では最低限のプログラムが実施できず、支援計画も立てられない。復職後の定着支援まで考えると、事業所や会社の方針によっては受けられないんです。
私の場合は、取引のあった事業所でたまたま担当者を知っていたこともあり、最低でも2ヶ月という条件で受け入れてもらえました。運がよかっただけです。だから同じことを考えている方は、必ず事前の説明会や電話で確認してください。
なお、リワークを受けるには市区町村の障がい者福祉担当窓口での手続きが必要でした。私の市区町村では、勘案事項整理票、主治医の診断書、勤務先からの意見書、お薬手帳をそろえた上で面談がありました。
費用は私の場合、共働きで市区町村民税課税世帯だったため9,300円かかっています。非課税世帯であれば負担はありません。必要書類も自己負担の上限額も自治体と世帯の状況によって変わるので、ここはご自身の窓口でご確認ください。
6-3. 復職時にやった「見える化」
リワークで学んだことのうち、復職後にいちばん効いたのはスキルではなく、支援員のアドバイスで作った1枚のリストでした。やったのは、自分の状態を5段階に分類することです。
| 状態 | よく出る行動・思考 | 対処 |
|---|---|---|
| 躁 | 予定を詰め込む、服薬を忘れる | 上長に業務量の調整を申し出る |
| 軽躁 | 話が速くなる、夜更かしが増える | 就寝時刻を固定する |
| 平常時 | — | 週1回の振り返りを継続 |
| 軽うつ | 朝の立ち上がりが遅い、返信が滞る | 確認作業を午前に寄せる |
| うつ | 出社準備に時間がかかる | 早めに休暇を取る、受診 |
※これは私の場合の分類です。特性は人によって違うので、作るなら主治医や支援員と一緒に。
このリストを、上長と支援員に渡しました。効果は想像以上でした。
周囲が「いまちょっと軽躁っぽいかもしれない」と気づいてくれる環境ができたんです。自分では気づけない状態を、他人が先に見つけてくれる。これが本当に大きかった。
加えて、週1回の上長との1対1の面談と、支援員との面談で、細かな変化も都度報告するようにしました。第2章で「限界を伝えていないなら、まだ辞めない方がいい」と書きましたが、その伝える仕組みを、性格や頑張りに頼らずに作ったということです。
採用側から見ても、こうして自分の状態を見える形にしてくれる人は、圧倒的に安心材料が多いんですよね。第4章で挙げた6つの判断軸のうち「自己理解の深さ」「困ったときに相談できるか」を、そのまま形にしたものだと言えます。
6-4. 部署異動と勤務地変更は、どう実現したか
第3章で、私が復職時に異動と勤務地変更をしてもらったと書きました。ここでは、それをどうやって実現したかを書きます。やったことは3つです。
- リワーク中に、復職後の働き方の希望を支援員と整理した……感情ではなく、どの業務ならできそうかという形にまとめた
- 6-3のリストを、復職面談の資料として提出した……「配慮してほしい」ではなく「この状態のときはこう対応します」という説明資料にした
- 希望を出す相手を分けた……業務内容の相談は上長、配置と勤務地の相談は人事部門へ
3が地味に効きます。上長は自分の部署の中でしか調整できませんが、部署をまたぐ異動や勤務地の変更は人事の領域です。相談先を間違えると「できません」で終わってしまうんですよね。これは自分が人事側にいたからわかったことでもあります。
結果として、休職前の負担が大きかった部署ではなく、入社当初に数年在籍して自信を取り戻すきっかけになった部署に戻れました。勤務地も自宅から通いやすい場所に変えてもらえています。
そして復職初日から、フルタイムで働くことができました。
これができた理由は、準備期間だと思っています。当初は1ヶ月のリワークで復職するつもりでしたが、実際には2ヶ月に延ばしました。リワーク中の出席率は100%で、在宅での作業など実際の業務に近い訓練も挟めた。焦って1ヶ月で切り上げていたら、こうはなっていません。
休職期間は、休養1ヶ月、リワーク2ヶ月、前後の手続きに1ヶ月で、合わせて4ヶ月でした。
6-5. それでも「辞めた方がよかった人」もいる
ここまで読んで、「異動を相談すればいいのか」と思った方がいるかもしれません。でも、私のケースには2つの前提があります。
- 異動できるだけの部署数がある会社だった……親会社の事業領域が広く、切り出される業務の種類が多かった
- 人事・採用の経験があったので、支援機関を選べた……短期受け入れの交渉ができたのも、つながりがあったからです
どちらも、誰にでもある条件ではありません。部署が1つか2つしかない特例子会社で「異動を相談してみては」と言われても、現実的ではないですよね。
だから私は、辞める選択をした人が間違っているとは思っていません。第2章のA群に多く当てはまるなら、環境を変えるのが正解です。私が残れたのは、残れる条件がそろっていたからで、それ以上の意味はありません。
ひとつだけ、どちらを選ぶ人にも共通して言えることがあります。判断は、体調がいちばん落ちているときにしないこと。私が休職に入った直後に「辞めます」と言っていたら、たぶん後悔していました。1ヶ月休んで意欲が戻ってから考えたので、異動という選択肢が見えたんです。

私の会社は部署が少ないので、異動は無理そうです。もう辞めるしかないんでしょうか。

辞めるしかない、と決めるのはもう少し先でいいと思います。異動が無理でも、勤務時間を落とす、休職して立て直す、という段階がまだ残っていますから。それを全部試した上で変わらなければ、そのときは環境を変えるタイミングです。順番を踏んでおくと、次の面接で「やれることはやりました」と胸を張って言えますしね。
私が通ったのは、これまで学んだことのなかった分野を扱う就労移行支援でした。基本を知っているのと知らないのとでは、その後の仕事の幅がまるで違うと感じています。
体調を立て直しながらスキルも身につけたい方は、分野特化型の就労移行支援も選択肢に入ります。
崩れた経緯、休職とリワーク、状態の見える化、異動の実現方法、そして私のケースの限界。ここまでが、辞めなかった側の記録です。
7. 辞めた後を支える支援サービスの選び方|転職エージェントと就労移行支援の使い分け

第3章で4つの進路を、第5章で在職中にやることを書きました。この章は、その両方で出てくる支援サービスをどう選ぶかの話です。
私は当事者として支援を受けた側でもあり、人事・採用の担当として支援機関と仕事をしていた側でもあります。つまりサービスを利用する立場と、サービスから人を紹介される立場の両方を見てきました。その視点から書きます。
7-1. 体調が安定していて、今すぐ動ける人|障害者専門の転職エージェント
いまの体調が安定していて、働き続けられているなら、選ぶのは転職エージェントです。一般的な転職サイトとの違いは3つあります。
- 障害者雇用枠の求人だけを扱っている……一般枠に紛れて探す必要がない
- 配慮事項を企業側に事前に伝えてもらえる……面接で一から説明しなくて済む
- 職務経歴書の書き方を相談できる……第4章の「翻訳」を一緒にやってもらえる
3つ目が、特例子会社から動く人にとって一番大きいと思います。自分の業務を外向けの言葉に置き換える作業は、社内にいる人間だけでやるのが難しいんですよね。社内の呼び名に慣れきってしまっているので。
利用は無料です。担当者との相性が合わなければ、変更を申し出ることもできます。ここを我慢する人が多いのですが、遠慮する場面ではありません。
7-2. まず体調とスキルを立て直したい人|就労移行支援
第2章のA群に「体調」の項目が入っていた方は、こちらが先です。
就労移行支援は、就職を目指す障害のある方が通所して、生活リズムを整えたり、必要なスキルを身につけたりする福祉サービスです。原則として最長2年間利用できます。
事業所によって、扱っている内容がまったく違います。ここが選択の分かれ目です。
- 生活リズムを整えることが中心の事業所……通所の習慣づけ、体調管理、対人スキル
- 特定の分野のスキルを扱う事業所……情報技術・ウェブ制作、事務、デザインなど
- 障害の種別ごとにプログラムを分けている事業所……特性に応じた訓練内容
私が復職前に通ったのは、それまで学んだことのなかった分野を扱う事業所でした。第6章で書いたとおり、基本を知っているかどうかでその後の仕事の幅が変わると実感しています。
ただしこれは、私が復職を目標にしていて、期間が区切られていたから選べた条件でもあります。目的によって最適解は変わります。
なお、利用料は世帯の所得に応じた自己負担の上限額が決まっており、条件に当てはまれば負担なしで利用できます。金額と手続きはお住まいの自治体の障がい者福祉担当窓口でご確認ください。
7-3. どちらを選ぶべきか|判断の軸
迷ったら、次の3つの質問で決まります。
- いま働けているか……働けている→エージェント/働けていない→就労移行支援
- 足りないのは求人情報か、それとも準備か……情報→エージェント/準備→就労移行支援
- 半年以内に働き始めたいか……はい→エージェント/時間をかけていい→就労移行支援
3つとも同じ側に寄るなら、そちらで間違いありません。割れる場合は、両方に相談してから決めても構いません。併用を禁止されているわけではないので。
| サービス名 | 種類・特徴 | おすすめな人 | 公式サイト |
|---|---|---|---|
| atGP(アットジーピー) | 障害者専門の転職サービス。求人紹介から書類・面接対策まで対応 | 体調が安定していて、今すぐ求人を見たい人 | アットジーピー【atGP】
|
| dodaチャレンジ | 障害者向けの転職サービス。大手グループの求人網が強み | 求人の選択肢を広く見て比較したい人 | dodaチャレンジ
|
| パーソルチャレンジ・ミラトレ | 障害のある方向けの就労移行支援。就職に向けた総合的な訓練を実施 | まず生活リズムと働く体力から整えたい人 | 障がいのある方への就労移行支援【パーソルチャレンジ・ミラトレ】
|
| atGPジョブトレIT・Web | 障害者専門の情報技術・ウェブ分野に特化した就労支援サービス | 事務職から幅を広げたい、手に職をつけたい人 | 障害者専門のIT・Web就労支援サービス【atGPジョブトレIT・Web】
|
※各サービスの詳細な条件・対応エリアは変更されることがあります。申し込み前に各公式サイトでご確認ください。
7-4. 元人事として見てきた「支援員・エージェントの質の差」の見抜き方
正直に書きます。支援機関にもエージェントにも、質の差は確実にあります。
私は人事・採用を担当していたとき、就労移行支援事業所やエージェントの担当者と、求人のやり取りや会社見学会・説明会の場で直接接する機会が多くありました。企業側の窓口として見ていると、差がはっきり見えるんですよね。見分けるポイントは3つです。
1. 企業側の事情を知っているかどうか
いい担当者は、紹介先企業の受け入れ体制を具体的に把握しています。「この会社は配慮に理解があります」ではなく、「この部署は過去に短時間勤務からの入社実績があります」といった粒度で話せる。これは企業と継続的に付き合っていないと出てこない情報です。
2. あなたの希望をそのまま企業に流していないか
希望を聞いて、そのまま企業に渡すだけの担当者がいます。そうではなく、企業に伝わる形に翻訳してくれるかを見てください。第4章で書いた「配慮事項の具体化」を、一緒にやってくれる人かどうかです。
3. 就職・入社がゴールになっていないか
入社後の定着支援まで話に出てくるかどうか。ここが抜けている担当者は、決めることが目的になっている可能性があります。
私が通った事業所の支援員は、エージェントの経験もあって社会人としての経験が長い方でした。人事・採用を担当していた私から見ても勉強になることが多く、支援する側の経験値が支援の質に直結すると実感しています。

担当者が合わないと感じたら、どうすればいいですか。

遠慮なく変更を申し出て大丈夫ですよ。事業所もエージェントも、担当変更の仕組みは普通にあります。合わない人と無理に続けるほうが、お互いにとって時間の損なんです。それに「合わない」と言えること自体が、第4章の6つの判断軸でいう「困ったときに相談できるか」の練習にもなりますしね。
在職中に相談だけしておきたい方は、まず求人を眺めるところから始めてみてください。
働けているならエージェント、準備が必要なら就労移行支援。そして担当者は選んでいい。最後に、ここまでで拾いきれなかった具体的な疑問にまとめて答えます。
8. よくある質問

Yahoo!知恵袋やQ&Aサイトで実際に投稿されていた質問を中心に、8つ答えます。本文で触れた内容と重なる部分は、該当の章を示すだけにとどめますね。
Q1. 辞めさせてもらえません。どうすればいいですか
まず、退職は労働者の権利です。会社の同意がなければ辞められない、ということはありません。
実務としては、第5章で書いた順番どおりに進めるのが確実です。口頭で伝えて動かない場合は、退職届を書面で提出し、提出した日付を記録に残してください。それでも取り合ってもらえない場合は、お住まいの地域の労働基準監督署や総合労働相談コーナーに相談できます。
Q2. 契約社員です。辞めるタイミングはいつが適していますか
次の更新をしない意思を、更新面談の場で伝えるのが一番角が立ちません。契約期間の途中で辞めるより、引き継ぎの時間も確保しやすくなります。
ただし更新上限が設けられている場合や、無期雇用への転換の条件に関わる場合は扱いが変わります。就業規則と契約書の更新条項を先に確認してください。
Q3. 特例子会社から一般企業の障害者雇用への転職は不利ですか
在籍先そのものが不利になることは、まずありません。不利になるとしたら、職務経歴書を読んでも何ができる人か伝わらないときです。
詳しくは第4章に書きました。社内の呼び名ではなく、一般的な職種名と成果物で書き直す作業が要ります。
Q4. 辞めた会社に出戻りはできますか
制度上ありえない話ではありません。業務も社内の事情も分かっている人材なので、受け入れ側の教育の手間が少なくて済むからです。
ただし、引き継ぎを終えて円満に辞めているかどうかで可能性は変わります。第4章の最後を参照してください。
Q5. 退職理由は「業務が単調でつらい」と正直に言っていいですか
面接での答え方としては、そのままだとおすすめできません。次の会社でも同じ理由で辞めると読まれてしまうからです。
同じ事実でも「◯◯の経験を活かして、業務改善まで関われる環境で働きたい」と、次に取りに行くものの形にすると印象が変わります。言い換えの例は第4章の表にまとめました。
Q6. 支援員が特例子会社ばかりすすめてくるのはなぜですか
理由はいくつか考えられます。特例子会社は障害のある方の受け入れ体制が整っていて定着しやすいこと、支援機関と企業の間に継続的な関係があること、そして支援員自身が過去の実績から安心して紹介できる先だと判断していること。
ただし、それがあなたに合っているかは別の話です。すすめられた理由を率直に聞いてみてください。「なぜ私にはここが合うと思われますか」と聞ける関係かどうかが、7-4で書いた担当者の質を測る材料にもなります。
Q7. 辞めた後に就労移行支援へ通っても、続かなかったらどうすればいいですか
実際に「会社勤めのトラウマを思い出してしまい、すぐに辞めることになった」という当事者の記録があります。珍しいことではありません。
(出典:COMHBO地域精神保健福祉機構 当事者投稿)
原因の多くは、退職の疲れが抜けきらないうちに次のプログラムを始めてしまうことです。私も休職に入ってから1ヶ月は何もしませんでした。休養の期間を先に取ることを、選択肢に入れてみてください。
Q8. 障害者雇用で2社迷っています。特例子会社を選ぶ基準はありますか
求人票では判断できないので、業務がどこから来ているか、社内で異動できるか、雇用形態と昇給の設計、この3つを説明会や見学の場で直接聞いてください。第3章の3-2で書いた見極めのポイントと同じです。
入社前に聞いておけば、辞めたいと悩む確率そのものを下げられます。
まとめ|辞めるか残るかは、体調と「10年後の自分」で決まる

長い記事をここまで読んでいただき、ありがとうございます。最後にもう一度だけ、判断の順番を確認させてください。
- 第2章のチェックリストで、A群とB群のどちらが多いかを数える
- A群が多いなら、在職中に情報を集めながら環境を変える準備を始める
- B群が多いなら、辞める前に社内で試せる3つの打ち手を実行する
- どちらも同じくらいなら、両方を同時に進めておく
そして、この記事でいちばん伝えたかったことを繰り返します。判断は、体調がいちばん落ちているときにしないでください。
私は40代後半で崩れて、4ヶ月の休職に入りました。あのとき休職直後に「辞めます」と言っていたら、たぶん後悔していたと思います。1ヶ月休んで意欲が戻ってから考えたので、異動という選択肢が見えました。
辞めることは失敗ではありません。残ることも我慢ではありません。どちらを選んでも、選ぶ前に整理をした人が、その後「よかった」と言えている——これが、辞めていく同僚を見送り、自分自身も辞める寸前まで行った13年で見てきたことです。
いま辞めたいと思っているあなたへ。その気持ちは甘えではなく、判断が必要だというサインです。サインを受け取ったなら、あとは順番どおりに動くだけ。ひとりで抱えずに、まず誰かに一度だけ伝えてみてください。

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