一般雇用で働いていた頃にうつと双極性障害を発症し、精神障害者保健福祉手帳を取得。就労移行支援を経て、大手企業の特例子会社へ。面接を受ける側と、面接をする側の両方に座りました。
はじめに
支援員から「ナビゲーションブックを作ってみましょう」と言われて、白紙の用紙を前に手が止まっていませんか? 何を書けばいいのか、どこまで正直に書いていいのか。私も似た場面で、ペンが進まなかった一人です。
最初に、正直にお伝えしておきます。私自身は、ナビゲーションブックも就労パスポートも、正式な様式で作ったことはありません。
そのかわり、同じ役割を持つ書類を2つ、自分で作りました。ひとつは履歴書に足した「障がいの詳細について」という欄。もうひとつは、リワーク(休職した人が職場に戻るための訓練)で通った就労移行支援の支援員と一緒に作った「症状別対処法」です。
そしてもうひとつの立場があります。特例子会社で人事・採用を担当していた頃、面接の場でナビゲーションブックや就労パスポートを受け取る側にいました。作る側の迷いと、読む側の目線。この記事は、その両方から書いています。
先に結論を言うと、書き方のコツはひとつに尽きます。苦手なことと必要な配慮を、読んだ相手がすぐ動ける形まで具体的にすること。受け取った書類がプラスに働いたのは、決まってここができているものでした。
この記事では、次の順番でお話しします。
- ナビゲーションブックと就労パスポートの違いと、選び方
- 採用担当が、受け取った書類のどこを読んでいるか
- 項目ごとの書き方と記入例
- 私が実際に作った書類をもとにした見本
- 入社後の見直し方と、一人で書けないときの頼り先
私のこれまでの経歴(2回の休職を含む)は、プロフィールにまとめています。
1. ナビゲーションブックと就労パスポートの違い|どちらを作ればいい?

「ナビゲーションブック」と「就労パスポート」、名前は聞くけれど何が違うのか、よく分からないままになっていませんか? この章では、2つの生まれと中身の違いを整理し、特に精神障害のある人がどちらを選べばいいかまでお伝えします。
1-1. ナビゲーションブックとは|発達障害のある人向けに生まれた「自分の説明書」
ナビゲーションブックは、自分の特性と、仕事で起きやすい困りごと、それに対して必要な配慮をまとめた「自分の説明書」です。「自分の取扱説明書」「自分のトリセツ」「自分マニュアル」と呼ばれることもありますが、中身はほぼ同じものを指しています。
生まれたのは、障害者職業総合センター職業センター(国の機関である高齢・障害・求職者雇用支援機構の、研究と支援を担う部門)です。知的障害を伴わない発達障害の人を対象にした専門プログラム「ワークシステム・サポートプログラム」の中で、平成26・27年度に開発されました。作り方と使い方をまとめた「支援マニュアルNo.13」は、平成28年3月に発行されています。
(出典:障害者職業総合センター「発達障害者のワークシステム・サポートプログラム ナビゲーションブックの作成と活用」)
特徴は、決まった書式がないことです。マニュアルに項目の例はあるものの、何をどう書くかは本人の状況に合わせて考えます。
自由に書けるぶん、自分らしさは出しやすい。その反面、白紙から書き始めることになるので、「何から書けばいいか分からない」と手が止まりやすいんですよね。
つまりナビゲーションブックは、決まった型に当てはめる書類ではなく、自分の言葉で組み立てる説明書です。自由度の高さが、そのまま書きやすさと書きにくさの両方になっています。
1-2. 就労パスポートとは|厚生労働省が作った共通の様式
就労パスポートは、厚生労働省が2019年(令和元年)11月に様式と活用の手引きを公表した、全国共通の書類です。平成30年12月から開かれた「精神障害者等の就労パスポート作成に関する検討会」での話し合いを踏まえて作られました。
働くうえでの自分の特徴やアピールポイント、希望する配慮を、就労支援機関と一緒に整理し、職場や支援機関と話し合うときに使う情報共有の道具です。
主な対象は、就職や職場定着を目指す精神障害・発達障害・高次脳機能障害(事故や病気で脳が傷つき、記憶や注意力などに影響が出る障害)のある人です。
ただし、それ以外の障害がある人も、本人が希望すれば使えます。様式はExcel版・Word版・PDF版が厚生労働省のホームページで公開されていて、誰でも無料でダウンロードできます。
(出典:厚生労働省「就労パスポート」)
ナビゲーションブックとの一番の違いは、書く項目があらかじめ決まっていることです。主な項目は、①職務経験、②仕事上のアピールポイント、③体調管理と希望する働き方、④コミュニケーション面、⑤作業遂行面(指示の受け方や段取り、正確さ、確認・報告など、仕事の進め方にかかわる特徴)の5つ。
この項目に沿って、選択肢にチェックを入れたり、短い文で書き足したりしていきます。
白紙から書かなくていいので、始めやすいのは就労パスポートのほうです。項目ごとの詳しい書き方は、4章でまとめてお話しします。
1-3. 精神障害ならどちら?迷ったときの選び方
結論から言うと、診断名で決める必要はありません。「発達障害だからナビゲーションブック」「精神障害だから就労パスポート」と分けて考えなくて大丈夫です。
どちらも目的は同じで、自分を理解してもらい、働きやすい環境を一緒に考えてもらうための書類だからです。
ここまでの違いを、表にまとめるとこうなります。
| 項目 | ナビゲーションブック | 就労パスポート |
|---|---|---|
| 作ったところ | 障害者職業総合センター職業センター | 厚生労働省 |
| もともとの対象 | 知的障害のない発達障害 | 精神・発達・高次脳機能障害(他の障害も可) |
| 書き方 | 自由に記述する | 決まった項目に選択と記述 |
| 始めやすさ | 白紙からなので難しめ | 項目に沿うので始めやすい |
| 自分らしさ | 出しやすい | 項目の外は書きにくい |
迷ったときは、次の3つで選んでみてください。
- 通っている支援機関がどちらを使っているか(慣れている様式なら、支援員の助けを借りやすい)
- 白紙から書くのが苦手なら就労パスポート、自分の言葉で書きたいならナビゲーションブック
- 気分や体調に波があり、選択肢に収まらない部分が多いなら、就労パスポートを土台にして自由記述を足す
採用担当として書類を受け取っていた立場から言うと、どちらの様式かで印象が変わることはありませんでした。
プラスに働いたのは、自分の状態を分かっていて、配慮の中身がはっきりしている書類。様式の名前ではなく、中身で読んでいたんです。

どちらか一方を完璧に作らないといけないんですか?

そんなことはないですよ。私はどちらの様式も使わずに、履歴書の中に自分用の欄を作って伝えていました。大事なのは様式ではなく、相手が読んで「こうすればいいのか」と分かる中身です。その実物は5章でお見せしますね。
私の場合は、気分の波を一言で説明しにくい双極性障害だったこともあり、決まった様式よりも、自分の状態を段階ごとに書ける形が合っていました。どの形を選んでも、読んだ相手が動ける内容になっていれば、それが正解です。
2つの違いが分かったところで、次の章では、受け取る側の採用担当が実際にどこを読んでいるのかをお話しします。
2. 元採用担当が見た「提出してくる応募者」の印象

ナビゲーションブックを面接に持っていったら、採用担当はどう受け取るのか。書く前に一番気になるのは、実はここではないでしょうか?
この章では、受け取る側にいた私の目線から、どこを読んでいたのか、何がプラスに働き、何が働かなかったのかをお話しします。
2-1. 受け取った側がまず目を通す3か所
受け取った書類で、私がまず目を通していたのは3か所です。今の体調とその安定を示す根拠、必要な配慮の欄、そして支援機関の欄でした。
理由は、採用担当が気にしているのが病名そのものではなく、「この人が安定して働き続けられるか」だからです。同じ診断名でも、症状の出方も必要な配慮も人によってまったく違います。だから診断名の欄は確認程度で、その先に書かれている中身を読んでいました。
採用側が何を基準に判断しているのかは、障害者雇用で人事が本当に見ている本音で詳しく書いています。
3か所それぞれで、見ていたのはこんな点です。
- 今の体調:通院や服薬が続いているか、就労移行支援の出勤率など、安定を数字で示せているか
- 配慮の欄:何をすれば働けるのかが、読んだだけで分かるか
- 支援機関の欄:困ったときに一緒に考えてくれる人が、本人の後ろにいるか
裏を返すと、この3か所がしっかり書けていれば、ほかの欄が多少あっさりしていても十分に伝わります。全部を完璧に埋めようとしなくていいんですよ。
2-2. プラスに働いた3つの理由|自己理解・配慮の明確さ・支援機関との連携
提出してくれた書類は、プラスに働くことが多かったです。理由をまとめると、自己理解が進んでいること、配慮事項がはっきりしていること、就労移行支援のサポートが行き届いて連携が取れていることの3つでした。
背景にあるのは、面接の時間の短さです。私の会社では、オンライン面接が中心になってからは、面接官の予定の都合もあって1回30分の枠で行っていました。
その30分で、経歴も志望動機も障害のことも聞かなければなりません。書類で自分の状態をあらかじめ示してもらえると、基本的な確認を短く済ませて、残りの時間を別の話に使えるんです。
その「別の話」が、採用側にとっては本題でした。面接に立ち会っていた頃、採用側でよく交わされていたのは「この人はどの部署から始めるとよいか」という会話です。得意なこと、苦手なこと、必要な配慮が見えている人ほど、配属先の具体的なイメージを持ちやすくなります。
3つ目の「連携」についても補足しておきます。当社では、面接への支援員の同席は、理由がある場合を除いて遠慮してもらっていました。本人の言葉で、自己理解や配慮事項を聞きたかったからです。
それでも、支援機関を利用していることは伝えてもらったほうが安心材料になります。書類の中に支援機関の名前と担当者が書いてあれば、「入社後に何かあっても相談できる先がある」と一目で分かるんですよね。

書類を出したら、面接で障害のことをあまり聞かれなくなるんですか?

聞かれなくなるというより、聞かれ方が変わるイメージです。書類に書いてあることは確認程度で済むので、そのぶん「どんな仕事なら力を発揮できそうか」という前向きな話に時間を使えます。面接で聞かれる質問そのものは、特例子会社の面接で聞かれる質問と回答例にまとめていますよ。
2-3. プラスにならなかった書類|配慮が抽象的で、サポートの形が浮かばない
反対に、提出されてもプラスにならなかったのは、配慮やサポートのイメージがわかない書類です。一言でいえば、書いてあることが具体的ではないもの。
たとえば「無理のない範囲で働きたいです」「体調に配慮してもらえると助かります」といった書き方です。気持ちはよく分かります。ただ、受け取った側は「無理のない範囲とは、どのくらいなのか」「何をすれば配慮したことになるのか」が分からず、そこで止まってしまいます。
採用担当は、面接のあとに配属先の上長へ「この人にはこういう配慮が必要です」と説明する立場でもあります。中身が抽象的だと、その説明ができません。
せっかく書類を用意しても、面接で一から聞き直すことになり、書類がない場合とほとんど変わらなくなってしまうんです。
では、どう書けば「サポートの形が浮かぶ」書類になるのか。その書き方は、次の章の 3-4 でお伝えします。
受け取る側の目線が分かったところで、次の章では、ナビゲーションブックを項目ごとに書いていきます。
3. ナビゲーションブックの書き方|項目ごとの記入例

いざ書こうとすると、どの欄も何から書けばいいのか迷いますよね。この章では、ナビゲーションブックでよく使われる4つの項目について、書くときのコツと記入例をお見せします。
記入例は、精神障害のある人を想定した架空の例です。私が実際に使った書類は、5章でお見せします。
3-1. 基本情報と障害名|診断書どおりに、短く
障害名の欄は、主治医の診断書に書かれた表記のまま、2〜3文でまとめれば十分です。ここで長く説明しようとしなくて大丈夫。
なぜなら、2-1 でお話ししたとおり、読む側がこの欄に求めているのは確認だけだからです。病気の説明を詳しく書くほど、肝心の「どうすれば働けるか」が後ろに埋もれてしまいます。
書くのは、障害名と手帳の種類・等級、いつ頃から治療をしているか、今はどういう状態か、の3点ほどで足ります。
記入例
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 障害名 | うつ病(精神障害者保健福祉手帳 〇級) |
| 経過と現状 | 20XX年に発症し、通院と服薬を続けています。現在は症状が落ち着いており、就労移行支援事業所に週5日通所しています。 |
最後の一文で「今は働ける状態にある」ことまで書いておくと、読む側はすぐに次の欄へ進めます。障害名の欄は、説明の場ではなく、自己紹介の入口だと考えてみてください。
3-2. 現在の体調・通院・服薬・主治医の見解
体調の欄では、「安定しています」と書くだけで終わらせず、安定していると言える根拠を数字で添えてください。採用側が一番知りたい欄なので、ここは少し丁寧に書きましょう。
「安定しています」という言葉だけでは、どのくらい安定しているのかが伝わりません。通院の頻度、服薬の時間、睡眠時間、就労移行支援の出勤率。こうした数字があると、読む側は自分の目で安定を確かめられます。
主治医が就労についてどう言っているかを書き添えると、本人の思い込みではなく、専門家の見立てがあることも伝わります。
記入例
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 通院 | 2週に1回(平日の夕方) |
| 服薬 | 朝食後と寝る前 |
| 主治医の見解 | 症状は安定しており、まずは1日6時間からの勤務であれば可能とのこと |
| 就労移行支援の出勤率 | 直近3か月で95% |
| 生活の工夫 | 寝る時間が遅くなると翌日に疲れが残りやすいため、23時までに布団に入るようにしています。 |
最後の「生活の工夫」のように、崩れやすい条件と、そのために自分でしていることを1行入れておくのもおすすめです。自分の状態を分かっている人だ、と伝わる一番の近道になります。
3-3. 得意なこと・苦手なことは「対処」とセットで
苦手なことを書くときは、必ず「自分でしている工夫」と「周りにお願いしたいこと」をセットにしてください。苦手を並べるだけの欄にしないことがポイントです。
苦手なことだけが並んでいると、読む側は「この仕事は任せられない」という判断材料しか持てません。そこに対処が書いてあれば、「この工夫があれば任せられる」という判断に変わります。同じ苦手でも、書き方ひとつで受け取られ方が逆になるんです。
記入例
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 苦手なこと | 複数の仕事を同時に進めると、優先順位が分からなくなり、抜けや漏れが出やすい |
| 自分でしている工夫 | 作業を始める前にやることをメモに書き出し、終わったものから消している |
| お願いしたいこと | 急ぎの仕事が重なったときは、どれを先に進めればよいかを一言教えてもらえると助かります |
得意なことも、同じように具体的に書くと伝わります。「コツコツ取り組める」より「数字の入力を、ミスなく続けることが得意」のほうが、配属先を考える材料になりますよね。

苦手なことをたくさん書くと、それだけで不利になりませんか?

対処と一緒に書いてあれば、不利にはなりにくいですよ。受け取る側が困るのは、苦手があることではなく、苦手が入社後に初めて分かることなんです。先に分かっていれば、合う仕事を最初から選べますからね。
3-4. 必要な配慮|要望ではなく「条件」として書く
配慮の欄は、「こうしてほしい」というお願いではなく、「この条件があれば、こう働ける」という形で書いてください。2-3 でお話しした「サポートの形が浮かばない書類」から抜け出す方法が、ここにあります。
抽象的な配慮を具体的にするには、「いつ・誰に・何を・どのくらい」の4つを埋めてみるのが近道です。たとえば「こまめに休憩を取りたい」なら、どのくらいの間隔で、何分なのかまで書きます。
就労パスポートの様式にも、「90分ごとに5分」のように、休憩のタイミングと頻度を具体的に書くよう記入のヒントが示されています。
書き直しの例
| 抽象的な書き方 | 具体的な書き方 |
|---|---|
| 無理のない範囲で働きたい | 残業は月10時間以内にしていただけると、体調を保ちながら働けます |
| こまめに休憩を取りたい | 90分に1回、10分ほど席を離れる時間をいただけると、集中力を保てます |
| 指示は分かりやすくしてほしい | 口頭の指示のあとに、要点をチャットで送っていただけると、聞き漏れを防げます |
右の列はどれも、読んだ上長がそのまま実行できる内容になっています。「〇〇があれば、〇〇ができる」という伝え方のコツや、面接で配慮を話すときの注意点は、特例子会社の面接で聞かれる質問と回答例の 3-4 で詳しく扱っています。
書き終えたら、「これを読んだ上長は、明日から何をすればいいか分かるか」と自分に問いかけてみてください。答えがはっきりしていれば、その配慮欄は受け取る側の安心材料になります。
ナビゲーションブックの4項目が書けたら、次の章では、決まった項目がある就労パスポートの書き方を見ていきます。
4. 就労パスポートの書き方|様式の項目を埋めるコツ

就労パスポートの様式を開いて、欄とチェック項目の多さに、そっと閉じてしまった人もいるのではないでしょうか? この章では、様式の手に入れ方と全体の組み立て、項目ごとの書き方、そして「全部埋めなくていい」理由をお話しします。
4-1. 様式の入手方法と、全体の組み立て
様式は、1-2 で紹介した厚生労働省の就労パスポートのページから、Excel・Word・PDFのどれかを選んでダウンロードします。パソコンで入力するならExcelかWord、手書きならPDFを印刷すると使いやすいです。漢字にふりがながついた様式も用意されています。
同じページに「活用の手引き」も置かれていて、ここに記載例が載っています。最初は様式だけを開くより、手引きの記載例を横に置いて進めたほうが、欄ごとに何を書けばいいかの見当がつきやすいんですよね。
様式の中身は、1-2 で挙げた5つの項目に、利用している支援機関を書く欄と、入社後に変化した点をふり返る欄が加わった形です。
ひとつ気をつけたいのは、ここには体調や通院のことなど、かなり個人的な情報が集まる点。元のファイルは自分で保管し、相手に渡すときは必要なページだけを印刷する使い方がおすすめです。
様式は「一度に全部書く書類」ではなく、「手引きを見ながら、必要な部分から埋めていく書類」だと考えてみてください。そう捉えるだけで、最初の一歩がずっと軽くなります。
4-2. 項目ごとの書き方
5つの項目は、それぞれ書き方のコツが違います。前半の3つは自分の言葉で書く欄、後半の2つはチェックを入れてから補足する欄だと考えると整理しやすいです。
前半の3つは、3章のナビゲーションブックとほぼ同じ考え方で書けます。
- 職務経験:会社名や期間だけでなく、どんな作業をしていたかを一言添える
- 仕事上のアピールポイント:これまでの職場や就労移行支援で「できていたこと」を、具体的な作業名で書く
- 体調管理と希望する働き方:通院や服薬のために必要な配慮と、希望する勤務時間を書く(書き方は 3-2 と同じ)
後半の2つ、コミュニケーション面と作業遂行面は、当てはまる項目にチェックを入れ、必要な配慮を補足していく形です。ここで役に立つのが、3-3 でお話しした「苦手と対処をセットで書く」考え方。
たとえばコミュニケーション面なら、「相手の表情から気持ちを読みとるのは苦手だが、質問して確かめることはできる」のように、できる方法まで書き添えるとぐっと伝わります。
作業遂行面では、指示の受け方、段取りや優先順位のつけ方、急な変更への対応、正確さ、確認や報告などを見ていきます。配慮を書くときは、「曖昧な言い方ではなく、いつまでに・何を・どの程度かを具体的に伝えてもらえるとよい」のように、相手がそのまま実行できる形にしてみてください。
チェックを入れるだけで終わらせず、1行でも自分の言葉を足しておく。それだけで、同じ様式でも「この人らしさ」が見える書類になります。
4-3. 全部埋めなくていい。書ける欄から、支援員と一緒に
就労パスポートは、全部の欄を埋める必要はありません。書けそうな欄から始めれば大丈夫です。
もともと就労パスポートは、支援機関と一緒に作ることを前提にした様式です。作成時の検討会でも、就職する前の段階では、職務経験・仕事上のアピールポイント・体調管理と希望する働き方の3つを中心に、部分的に使えるようにする考え方が示されていました。
コミュニケーション面と作業遂行面は、実際の職場での様子を踏まえて書くほうが客観的になるため、就職してから書き足していくことも想定されています。働いた経験が少ないうちに後半の2つが書けなくても、困らなくていいんです。
私は就労パスポートを使ったことはありませんが、採用担当として受け取った書類を振り返っても、すべての欄が埋まっていることより、2-1 で挙げた3か所がしっかり書けていることのほうが印象に残っていました。空欄があることで評価が下がった記憶はありません。

支援員さんと一緒に書くと、自分の言葉じゃなくなりそうで心配です。

その心配はよく分かります。ただ、自分では気づけない特徴を、支援員さんのほうが先に見つけてくれることも多いんですよ。書くのは自分、問いかけてくれるのが支援員さん、という役割分担だと考えるといいと思います。私が支援員さんのひと言で書けるようになった話は、次の章でお伝えしますね。
書ける欄から書き、空いた欄は支援員と話しながら埋めていく。そうやって少しずつ育てていくのが、就労パスポートの自然な作り方です。
様式の書き方が分かったところで、次の章では、どちらの様式も使わなかった私が、実際に作った書類をお見せします。
5. 【実例】様式を使わなかった私が、代わりに作った2つの書類

ここまで書き方をお話ししてきましたが、「実際に使われた書類を見てみたい」と思いませんでしたか?
この章では、私が障害者雇用に応募したときの履歴書の欄と、リワーク中に支援員と作った症状別対処法を、個人が特定できないよう手を加えたうえでお見せします。作る前に何が書けなかったのか、どんな問いかけで書けるようになったのかも、あわせてお話しします。
5-1. 履歴書に「障がいの詳細について」欄を作った
一般雇用から障害者雇用に移るとき、私は履歴書に「障がいの詳細について」という欄を自分で作りました。今振り返ると、ナビゲーションブックの主な項目を、履歴書の中にぎゅっと収めた形になっています。
実際の欄を、個人が特定できる部分を伏せてお見せします。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 手帳・障害名 | 精神障害者保健福祉手帳 〇級(20XX年X月取得)/双極性障害 |
| 現状と詳細 | 20XX年頃に発症し、治療を開始しました。当時はだるさなど、うつの症状が主でしたが、その後一時的に気力が高まりすぎる状態が現れ、双極性障害と診断されました。主治医の指示に従って服薬を続けることで症状は安定しており、〇〇就労移行支援センターへの通所も安定しています。仕事が忙しくなって睡眠時間が短くなると体調を崩す傾向があるため、1日7〜8時間の睡眠と規則正しい生活、適度な運動を心がけています。 |
| かかりつけ医・通院 | 〇〇クリニック/月1回程度(定期・土曜日) |
| 主治医の就労に関する見解 | 症状は安定しているため、服薬を続ければ、様子を見ながらフルタイム勤務が可能 |
| 服薬 | 朝・夕食後 |
| 協力支援機関 | 〇〇就労移行支援センター(担当者:〇〇)/週5日・1日4時間利用(休憩60分を含む)/直近3か月の出勤率99% |
| 必要な配慮(業務面) | 仕事が重なって同時に進める量が増え、残業などになる場合は、仕事量の調整や、体調・生活リズムの相談にのっていただけると幸いです。 |
| 必要な配慮(その他) | 業務に集中しすぎると疲れがたまりやすいため、1.5〜2時間ごとに10分程度の休憩をいただけると幸いです。 |
いま採用担当の目線で読み返すと、2-1 で挙げた3か所がそろっているのが分かります。主治医の見解と出勤率99%が安定の根拠になり、支援機関の名前と担当者が連携を示し、休憩の配慮は「1.5〜2時間ごとに10分程度」と、読んだ人がそのまま実行できる形です。
「睡眠が短くなると崩れる」という崩れやすい条件と、そのための工夫を書いている点も、3-2 でお話ししたとおりです。
正直に言えば、足りないところもあります。業務面の配慮は「相談にのっていただけると幸いです」で止まっていて、いつ・どのくらいの頻度で相談したいのかまでは書けていません。今の私なら「週に1回、10分ほど業務量について話す時間をいただけると」のように、もう一歩具体的にすると思います。
様式がなくても、履歴書の中に一つ欄を作るだけで、ナビゲーションブックと同じ役割は果たせます。書類を何枚も用意するのが負担な人には、この形も選択肢のひとつですよ。
5-2. 対処法の前に、職歴から「崩れるパターン」を振り返った
症状別対処法を作る前に、支援員から最初にすすめられたのは、これまでの職歴を振り返ることでした。どの職場で、どんな症状が出て、そのとき何が起きていたのか。それを一枚の表に書き出していったんです。
表の列は、時期、会社、部署と仕事の内容、出た症状、体調の悪化につながった周りの状況(外からの要因)、体調の悪化につながった自分の考え方や行動のくせ(内側の要因)、の6つでした。時期や会社名は伏せて、中身だけをまとめるとこうなります。
| 出た症状 | 外からの要因 | 自分の考え方のくせ |
|---|---|---|
| 焦り、だるさ | 休日対応や残業、徹夜が続く繁忙期 | 家庭を持ったばかりで、頑張らなければと思い込んでいた |
| のどの渇き、だるさ、めまい、頭が働かない、眠れない、自律神経の乱れ | 上の立場からの強い圧力、経験の浅い業務の引き継ぎ | 一家を支えなければと、一人で背負い込んでいた |
| イライラ | 新人教育の負担 | 仕事に慣れて落ち着くと、次の段階を目指してしまう |
| 頭が働かない、眠れない、自律神経の乱れ | 仕事の量の多さ | 周りのレベルの高さに焦り、自分は劣っていると考えてしまう |
| のどの渇き、だるさ、めまい、頭が働かない、眠れない、自律神経の乱れ | 自分のペースで進められない、任せられる人がいない、作業が多すぎる | 周りも忙しいので言い出せない、急な依頼を断れない |
書き出してみて驚いたのは、職場も仕事も違うのに、同じ症状が何度も出ていたことです。のどの渇き、めまい、眠れない。これが、私の体が出す「限界が近い」というサインでした。
次の症状別対処法で、軽うつの段階に「口が乾く」を入れたのは、この振り返りがあったからです。
もうひとつの発見は、考え方のくせのほうでした。「言い出せない」「断れない」「落ち着くと上を目指してしまう」。環境が変わっても、自分の側のくせは同じだったんです。
外からの要因は周りに配慮をお願いすることで減らせますが、内側の要因は自分で気づいて手を打つしかありません。この2つを分けて書いたことが、そのまま次の表の「自分がすること」と「周りにお願いしたいこと」の分け方につながりました。
5-3. 支援員と作った「症状別対処法」|書けなかった欄と、書けるようになった問いかけ
2回目の休職のとき、リワークで通ったatGPジョブトレIT・Webの支援員と一緒に作ったのが、この「症状別対処法」です。双極性障害の自分の状態を、躁・軽躁・平常(いい感じ)・軽うつ・うつの5段階に分け、段階ごとに出るサインと対処をまとめました。
事業所選びや通っていた2か月間の様子は、atGPジョブトレIT・Webは評判通り?で詳しく書いています。
実物をもとに、重なっていた部分や表現を整えたものがこちらです。
| 段階 | 行動に出るサイン | 考え方に出るサイン | 自分がすること | 周りにお願いしたいこと |
|---|---|---|---|---|
| 躁 | 急に旅行の計画を立てる・実際に出かける 買い物が増え、お金を使いすぎる 言い合いになりやすい コーヒーやお酒などの量が増える | せっかちになり、待つことにイライラする | 主治医に相談して通院の間隔を早める 大きな買い物や契約は、その場で決めない | 大きな出費の前に相談にのってもらう 言い方がきつくなっていたら、そっと伝えてもらう |
| 軽躁 | 集まりを自分から企画するなど、人付き合いが急に増える 新しいことに次々手を出す(本を読み切れないほど買う、趣味を増やす) よくしゃべり、冗談が増える 体を動かしたくなる 仕事や家事の手が速くなる | 元気で、何でもできる気がする 仕事や訓練が楽しい 頭の回転が速く感じる 楽観的になる | 予定表を見て、詰め込みすぎていないか確認する 問題を解決するだけでなく、気晴らし・休む・人に頼るなど、別の対処も使う | 「最近ペースが速いかも」と気づいたら声をかけてもらう 新しい仕事を受ける前に、空きがあるか一緒に確認してもらう |
| 平常(いい感じ) | 仕事ではスピードより正確さを意識して、着実に進められる 週末は人と会いつつ、一人の趣味も楽しめる | 多少の心配ごとがあっても、なんとかなると思える 穏やかで落ち着いている 空気がおいしい、星がきれいなど、景色や季節を味わえる | 上がりすぎないよう、「低空飛行」くらいのペースを保つ 調子がいいときほど、服薬を忘れない | この状態を「基準」として知っておいてもらう |
| 軽うつ | 雑談やランチの誘いが減る 朝がつらく、出勤がぎりぎりになる 食欲が落ちる、口が乾く、声がかすれる 肩こりがひどくなる いつもの業務に時間がかかる 服の色合わせが考えられず、黒っぽい服ばかりになる | 会社に行きたくない 悲観的になり、自信がなくなる 趣味も楽しめない 考えがまとまりにくい | 気晴らし・休む・人に頼る・気持ちを吐き出すなど、いろいろな対処を試す 食事・睡眠・運動を見直す ストレスのもとから距離をとる | 業務量を一時的に減らしてもらう 相談の時間をとってもらう |
| うつ | 体がだるく、起き上がれない 話や行動がまとまらない 服を選ぶなど、小さなことが決められない 眠れない、悪い夢を見る 寝汗や耳鳴りが出る | 悪いことばかり考えてしまう 将来に希望が持てない 消えてしまいたいと思う(希死念慮) | すぐに主治医に連絡し、薬を調整してもらう(私の場合、調整が合ってから2〜3週間、遅くても1か月ほどで回復の兆しが見えた) 実家に帰る | 1〜2週間のまとまった休みを取れるよう調整してもらう。難しければ休職も含めて相談にのってもらう |
※この表は、私個人の状態に合わせて作ったものです。症状の出方や必要な対処は人によって違うので、作るときは主治医や支援員と相談しながら進めてください。
うつの段階のサインが出ているときや、消えてしまいたい気持ちがあるときは、一人で抱えずに、まず主治医に連絡してください。 夜間や休日などで主治医につながらないときは、公的な電話相談も使えます。
- こころの健康相談統一ダイヤル:0570-064-556(かけた場所の都道府県などの公的な相談窓口につながります)
- よりそいホットライン:0120-279-338(どんな悩みでも相談できます)
- #いのちSOS:0120-061-338(「死にたい」「消えたい」気持ちを専門の相談員が受け止めます)
相談できる時間は変わることがあるため、最新の情報は各窓口の公式サイトで確認してください。
この表、最初からすらすら書けたわけではありません。どうしても手が止まった欄が2つありました。「いい感じ」のときの行動と、うつのときの対処です。
「いい感じ」の欄が書けなかったのは、調子がいいときの自分を、わざわざ観察したことがなかったからです。困っていたとき、支援員からこんな助言をもらいました。

調子がいいときのことって、何を書けばいいのか思いつかないんです。

私も同じでした。支援員さんからは「いい感じのときに、どんなことをしているかを書いておくといいですよ」と言われて、例として「仕事ではスピードより正確さを意識して取り組めている」「週末は人と会いつつ、一人の趣味も楽しめている」を挙げてもらったんです。それを見て、ようやく自分の「基準」が言葉になりました。
平常の欄があると、そこから外れたときに気づきやすくなります。「最近、週末に一人でいる時間が楽しめていない」と感じたら、それは軽うつへの入り口かもしれない。基準があって初めて、ずれが分かるんですよね。
うつのときの対処も、最初は「休む」「相談する」のような漠然とした言葉しか出てきませんでした。支援員の助言は、「うつになったときは、考えること自体が難しくなりやすいので、考えなくても動ける行動を書いておくとよい」というものでした。
そこで「回避」とだけ書いていた欄を、「実家に帰る」という具体的な行動に書き直したんです。調子を崩しているときの自分が、迷わず読めて、そのまま動ける言葉にする。これは表全体を書き直すときの基準にもなりました。
もうひとつ大きかったのが、コーピングという考え方を教えてもらったことです。コーピングとは、ストレスへの対処のしかたのこと。それまでの私は、つらいときは「原因を解決しなければ」としか考えていませんでした。
支援員から、問題を解決する以外にも、気晴らしをする、その場から離れる、人に頼る、気持ちを吐き出す、といった対処があると聞いて、手持ちの選択肢が一気に増えたんです。軽躁と軽うつの欄に「いろいろな対処を試す」と入っているのは、このときの学びです。
5-4. 渡したあと|定期面談でリストを見ながら、経過を気にかけてもらえた
完成した症状別対処法は、復職するときに上長と支援員に渡しました。渡してから変わったのは、定期的な面談のたびに、上長がこのリストを見ながら、経過や今の状態を気にかけてくれるようになったことです。
面談は、上長と週1回の1対1の面談、支援員とは別に定期的な面談を続けていました。そのたびに、リストのどの段階に近いかを確認しながら、細かな変化も報告するようにしていたんです。
「最近、ペースが速くなっていませんか」と聞かれて、自分では気づいていなかった軽躁の兆しに気づけたこともありました。
自分では気づけない変化を、周りが先に見つけてくれる。この表の一番の価値は、そこにあると思っています。そして採用担当をしていた立場から言えば、会社側にとっても、こうして状態を見える形にしてくれる人は、一緒に働くうえでの安心材料がとても多いんです。
休職から復職までの全体の流れは、休職から復職の体験談にまとめています。
私がこの表を作れたのは、支援員が問いかけてくれたからです。一人で書くのが難しいと感じたら、支援員と一緒に作れる場所を頼ってみてください。
私が症状別対処法を作った事業所の支援員は、書けない欄に具体例を出して、一緒に言葉を探してくれました。
作った書類は、渡して終わりではありません。次の章では、入社後にどう見直し、誰にどこまで見せるかをお話しします。
6. 作ったあとが本番|入社後の見直しと、共有する範囲

ナビゲーションブックや就労パスポートは、採用が決まったら役目を終える書類だと思っていませんか? 実は、本当に効いてくるのは入社してからです。この章では、書き直すタイミングと、職場の誰にどこまで見せるかをお話しします。
6-1. 状態や業務が変わったら書き直す|見直しのきっかけ
一度作った書類は、自分の状態や仕事が変わったら書き直してください。入社前に書いた内容は、あくまで「その時点の自分」の説明だからです。
働き始めると、体調も、任される仕事も、周りの人も変わっていきます。入社前は「電話対応が苦手」と書いていても、慣れてできるようになることもあれば、逆に新しい業務で別の苦手が見えてくることもあります。
就労パスポートの様式には、いちばん上に「最終更新日」の欄があり、入社後にはコミュニケーション面と作業遂行面のうち変化したと感じる項目を書き出す「就職後の自己チェック」の欄も用意されています。
名前の「パスポート」にも、就職活動や職場定着といった場面を港に見立て、自分の情報を書き足していく「渡航歴」という意味が込められているそうです。書類を育てていくことが、もともと想定されているんです。
見直しのきっかけになりやすいのは、次のような場面です。
- 部署の異動や、担当する仕事が大きく変わったとき
- 薬が変わった、体調の波が出てきたなど、状態が変わったとき
- 休職から復職するとき
- 定期面談で、書類の内容と今の自分がずれていると感じたとき
私自身、見直しの大切さを身をもって知った一人です。特例子会社に入って10年以上たった頃、体調が長く安定していたことで、服薬を忘れることが増え、気づけば一般雇用の頃に近い量の仕事をこなすようになっていました。
そこに家庭の事情と仕事の忙しさが重なり、うつの側に大きく振れて、特例子会社で初めての休職をすることになったんです。
今思えば、状態が良いときほど、自分を振り返る機会が減っていました。私の症状別対処法は、上のきっかけのうち「休職から復職するとき」に作ったものです。
復職してからは、上長との定期面談でリストを見ながら今の段階を確認するのが習慣になり、「最近ペースが速い」というずれにも早めに気づけるようになりました。
リストそのものは、まだ書き直したことがありません。これからは、部署や仕事が変わったとき、薬や体調の波が変わったとき、定期面談で今の自分とのずれを感じたとき、の3つのタイミングで見直していくつもりです。
書類は、状態が悪いときのためだけのものではありません。調子が良い時期こそ、書いた内容と今の自分を見比べてみてください。
6-2. 上長・チーム・支援員、誰にどこまで見せるか
書類を見せる範囲は、上長と支援員には必ず、チームのメンバーには本人の意向で決める、という考え方がおすすめです。
上長は、仕事の量を調整したり、配慮を実際に形にしたりする立場の人です。上長が内容を知らないと、どれだけ良い書類を作っても配慮が動きません。
入社後も支援を受けている支援員や、就労定着支援(就職した人が職場に定着できるよう、就労移行支援事業所などが続けて相談にのる福祉サービス)の担当者とも共有しておくと、職場と支援機関が同じ情報をもとに話せます。
一方で、チームのメンバーにどこまで伝えるかは、人によって判断が分かれるところです。精神障害は見た目では分かりにくいので、配慮が必要な場合は、上長から情報を共有してもらい、チームにも伝えておくと周りが気づきやすくなります。
ただ、個人情報を守る観点から、障害の内容をチームに伝えない判断をする人もいます。その場合、配慮の中身を知っているのはチームリーダーだけ、ということも珍しくありません。

チームの人に知られるのが不安です。伝えないと、やっぱり不利になりますか?

伝えないこと自体で不利になるわけではないですよ。ただ、伝えている場合と伝えていない場合の一番の違いは、体調が安定しないときの相談のしやすさです。全部を話す必要はないので、「疲れが出るとこういうサインが出ます」のように、周りに知っておいてほしいところだけを伝えるやり方もありますね。
見せる範囲を決めたら、書類の中身もそれに合わせて分けておくと安心です。上長には全部、チームには「サインと、そのときにしてほしいこと」だけ。症状別対処法でいえば、「周りにお願いしたいこと」の列がちょうどその役割を果たします。
書類の育て方と見せ方が分かったところで、次の章では、書くときによく出てくる疑問にまとめてお答えします。
7. よくある質問

ここまで読んで、「こういう場合はどうなの?」という疑問が残っている人もいるのではないでしょうか。この章では、ナビゲーションブックや就労パスポートを書くときによく出てくる質問に、採用担当と当事者の両方の立場からお答えします。
Q1. 手書きとパソコン、どちらがいいですか?

手書きのほうが気持ちが伝わる気がするんですが、パソコンで作ってもいいんでしょうか?

どちらでも大丈夫です。私のおすすめはパソコンですね。6-1 でお話ししたように、この書類は入社後も書き直していくものなので、データで持っておくと直すのが楽なんです。手書きで作る場合は、読みやすい字で、1枚に詰め込みすぎないようにしてみてください。
Q2. 面接にいきなり持って行ってもいいですか?どう渡せばいいですか?

事前に何も言っていないのに、面接の場で急に渡したら失礼になりませんか?

失礼にはなりませんよ。採用担当をしていた頃も、面接の場で提出してくれる人はいました。渡すときは、面接の最初か、障害について聞かれたタイミングで「自分の状態と必要な配慮をまとめた資料をお持ちしました」と一言添えると、相手も受け取りやすいです。応募書類と一緒に事前に送れる場合は、そうしておくと、面接官が先に目を通せます。
Q3. 診断書があれば、ナビゲーションブックはいりませんか?

主治医の診断書を出せば、それで十分な気もするんですが…。

役割が違うので、あると心強いですよ。診断書は、医学的な立場から病気や状態を説明するものです。一方で、採用側が知りたいのは「職場でどうすれば力を発揮できるか」。それを書けるのは本人だけなんです。診断書の内容は、3-2 で紹介した主治医の見解の欄に一言で引用して、そこから先を自分の言葉で書く形がおすすめです。
Q4. 復職するときにも使えますか?

いま休職中で、復職のときに職場へ何か渡せたらと思っているんですが、使えますか?

使えます。むしろ復職のときこそ役に立ちます。5章でお見せした症状別対処法も、私が復職するときに上長へ渡すために作ったものでした。休職前に何が起きていたかを振り返っておくと、同じことを繰り返さないための配慮を、具体的にお願いしやすくなりますよ。
Q5. 自分ではどうしてもうまく書けません。どうすればいいですか?

書き方は分かったんですが、いざ書こうとすると、やっぱり言葉が出てきません。

それは自然なことだと思います。私も、支援員さんの問いかけがなければ、いい感じのときの欄もうつのときの欄も書けませんでした。自分のことは、自分が一番見えにくいんですよね。一人で抱えずに、一緒に作ってくれる人を頼ってみてください。頼り先は、次の章でご紹介します。
疑問が解けたら、あとは書き始めるだけです。最後の章では、一人で書くのが難しいときに頼れる場所をご紹介します。
8. 一人で書けないときは、支援員と作る選択肢

ここまで読んで、「書き方は分かったけれど、やっぱり一人では書けそうにない」と感じている人もいるかもしれません。それは少しもおかしなことではありませんよ。この章では、一緒に作ってくれる人がいる場所と、選ぶときに見ておきたい点をお伝えします。
8-1. 就労移行支援で、支援員と一緒に作る
一人で書けないなら、就労移行支援の支援員と一緒に作るのが一番の近道です。私自身、5章でお話ししたように、支援員の問いかけがなければ、書けない欄を埋めることはできませんでした。
就労移行支援は、一般企業で働くことを目指す障害のある人が、一定の期間、働くために必要な知識や力を身につける訓練を受けられる福祉サービスです。ナビゲーションブックや就労パスポートづくりも、その中で支援員と一緒に進められる事業所があります。
(出典:厚生労働省「障害者の就労支援対策の状況」)
人事担当をしていた頃、私は就労移行支援事業所の担当者と、求人や会社見学会などで直接やり取りする機会がたくさんありました。その経験から、見学のときに次の3点を聞いてみることをおすすめします。
- ナビゲーションブックや就労パスポートの作成を、個別に手伝ってもらえるか
- 作った書類を、応募先の企業と共有するところまで一緒に動いてもらえるか
- 就職したあとの定着支援で、書類の見直しにも付き合ってもらえるか
この3点のほかにも、見学で確かめたいことを目的別に20問にまとめています。見学の前に、就労移行支援の見学で聞く質問20もあわせて読んでみてください。
2-2 でお話ししたとおり、採用側にとっては、書類の中身だけでなく「支援機関と連携が取れていること」自体が安心材料になります。書類を作って終わりではなく、その先まで一緒に動いてくれる事業所を選んでみてください。
ここからは、私が採用担当として、また利用者として見てきた中から、書類づくりを相談しやすい事業所を3つご紹介します。どれも業界大手で専門性が高く、支援員の質も高いと感じたところです。
パーソルチャレンジ・ミラトレ
障害者向けの転職支援サービス「dodaチャレンジ」と同じパーソルダイバースが運営していて、就労移行支援と転職支援の連携がとりやすいのが特徴です。休職中の人向けのリワークを行っている事業所もあるので、復職に向けて書類を作りたい人にも合っています。
企業の人事を知る運営元だからこそ、「採用側に伝わる書類」を一緒に考えてもらいやすいはずです。
atGPジョブトレ
うつ、発達障害、統合失調症など、障害ごとにコースが分かれた就労移行支援です。同じ悩みを持つ人と一緒に、自分の特性に合わせたプログラムを受けられます。休職した人の職場復帰支援(リワーク)にも対応しています。
自分と似た特性の仲間と一緒に書類を作れるので、「何を書けばいいか」のヒントが見つかりやすい環境です。
Neuro Dive
AIや機械学習、データ分析などの先端ITに特化した就労移行支援です。専門の技術スタッフと就職支援の支援員がそろっていて、IT分野での就職を目指しながら、応募書類づくりや模擬面接のサポートも受けられます。
IT分野で働きたい人なら、スキルを身につけながら、自分の特性を伝える書類も一緒に整えられます。
どの事業所も、見学や説明会は無料で参加できます。上の3つの質問を持って、雰囲気を確かめに行ってみてください。
8-2. 通えないときは、ハローワークや転職エージェントに見てもらう
仕事をしている、近くに事業所がないなどの理由で就労移行支援に通えない人は、ハローワークや転職エージェントに書類を見てもらう方法もあります。
厚生労働省も、就労パスポートを作る前に、まずは最寄りのハローワークで、地域にどんな支援機関があり、どう使いながら就職活動を進めていけるかを相談することをすすめています。ハローワークには障害のある人向けの専門の窓口があり、自分に合った支援機関を紹介してもらえます。
(出典:厚生労働省「障害のある方の就労パスポートをご活用ください」)
すでに転職活動を始めている人は、障害者向けの転職エージェントに、応募書類と一緒に見てもらうのも手です。エージェントは多くの企業の採用担当とやり取りしているので、「この書き方で伝わるか」を採用側に近い目線で確かめてもらえます。
障害者向けの転職サイトの違いと使い分けは、精神障害の転職サイトはどっち?で比べています。

どこにも相談せずに、自分で作ったものをそのまま出すのはダメですか?

ダメではないですよ。私も履歴書の欄は自分で作りました。ただ、自分では具体的に書けたつもりでも、読む側には伝わっていないことがあるんです。出す前に一人でいいので、誰かに読んでもらって「これを読んで何をすればいいか分かりますか」と聞いてみてください。それだけで、ぐっと伝わる書類になりますよ。
頼れる場所が分かったら、あとは一歩を踏み出すだけです。最後に、この記事の要点をまとめておきます。
まとめ

ナビゲーションブックや就労パスポートは、自分を良く見せるための書類ではなく、自分の取扱説明書です。
採用担当として受け取っていた立場から言えば、読んで安心できたのは、完璧に書かれた書類ではなく、「こうすれば、この人は働ける」が見える書類でした。
この記事でお伝えしたことを、最後に振り返っておきます。
- 様式はどちらでもいい。診断名ではなく、書きやすさと支援機関の使い方で選ぶ
- 採用担当が見ているのは、今の体調の根拠・配慮の欄・支援機関の欄の3か所
- 苦手なことは、自分の工夫と周りへのお願いとセットで書く
- 配慮は「いつ・誰に・何を・どのくらい」まで書き、読んだ上長がそのまま動ける形にする
- 作ったあとも、仕事や体調が変わったら書き直して育てていく
私は正式な様式こそ使いませんでしたが、履歴書の一欄と、支援員と作った症状別対処法が、障害者雇用で働き続ける私を今も支えてくれています。
あなたの書類も、最初は数行からで構いません。書けない欄があったら、一人で抱えずに、一緒に考えてくれる人を頼ってみてください。
書類づくりに不安があるなら、まずは就労移行支援の見学で「作成を手伝ってもらえるか」を聞くところから始めてみてください。


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